2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

2024年時代小説ベスト10【単行本部門】

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2024時代小説ベスト10【単行本部門】

2024年おすすめの時代小説ベスト10(単行本)

「時代小説SHOW」による、2024年時代小説ベスト10【単行本部門】を発表します!

対象となるのは、Amazonでの発売日または奥付表記が2023年11月1日から2024年10月31日の間に発行された時代小説です。対象作品は、ハードカバーおよびソフトカバー(新書判含む)の単行本で刊行されたものに限られます。

2024年も、多くの素晴らしい時代小説が発行されました。東京新聞の「推し時代小説」コーナーで、定期的に単行本の新刊を紹介する機会をいただき、一年を通じて多くの魅力的な作品と出会うことができました。

そこからベスト10を選び出す作業は非常に困難である一方、至福の時間を過ごす楽しみでもありました。

「時代小説SHOW」では、さまざまな形で面白い時代小説を紹介しています。今回のベスト10では、一気読みしたくなるほどの面白さを持つ作品に加え、時代小説の魅力を新たな読者へ届けられるような、魅力的な作品を選出することを心がけました。

1位 『惣十郎浮世始末』
惣十郎浮世始末
装画:五十嵐大介
装幀:川名潤

木内昇(きうち・のぼり)
中央公論新社
2024年6月刊

♪ 天保十三年初春の夜――。浅草阿部川町にある漢方医御用達の薬種問屋。その焼け跡から二体の骸が発見されました。
北町奉行所定町廻同心の服部惣十郎が捜査を進め、犯人を捕らえますが、うち一体の骸については「自分は知らない」と証言します。誰が、何のために殺したのか? 真相は謎に包まれています。

一方、惣十郎の検屍を手伝った町医者・梨春(りしゅん)は、十歳のとき、疱瘡(天然痘)によって家族をすべて喪い、天涯孤独の身となりました。それでもなお、小児医療書を翻訳し刊行する夢を追い続け、懸命に奔走していました。

惣十郎は、哲学者のような洞察力で浮世の真実を見抜くように、事件の真相を一枚一枚、丁寧に剥がしていきます。
登場人物たちはそれぞれがままならない現実を抱えつつ、もがきながらも日々を生きています。その姿が胸に迫り、読者の心を打ちます。
本書は捕物小説の形式を取りながらも、浮世を鮮やかに描き出した市井小説でもあります。

はじめは散らばっているかのように見えるバラバラな謎が、次第に組み合わさり、一つの真実へと収束していくプロセスに引き込まれます。その謎解きの面白さと痛快さが、本書の大きな魅力です。
物語を読み始めた瞬間、たちまちその世界に引き込まれ、次に何が起こるのか知りたくなる――。時代小説とミステリーの新たな到達点を示した、傑作の誕生です。

2位 『赫夜(かぐよ)』
赫夜
装画:宇野信哉
装幀:高柳雅人

澤田瞳子(さわだ・とうこ)
光文社
2024年7月刊

♪ 本作の舞台は、平安時代初期。主人公の鷹取は、駿河国司・大中臣伯麻呂(おおなかとみ・はかまろ)に従属する家人(けにん)。賤民という身分から抜け出せず、現在の境遇に不満を抱えながら生きています。

鷹取は軍馬を養う官牧・岡野牧で働きつつ、富士山噴火の災害と向き合い、避難民たちとともに苦難を乗り越えていきます。焼灰が降り注ぐ様子や、噴火による甚大な被害の描写はリアルで、災害の恐ろしさが生々しく伝わってきます。

避難生活が続く中、被災者たちの心理も次第に変化していきます。焼灰を片付けて元の暮らしを再建する者、新天地を求めて故郷を捨てる者、さらには災害に乗じて盗みを働く者も現れます。

当初は不満ばかりを抱えていた鷹取が、未曾有の大災害を経験し、被災者たちと共生する中で、少しずつ自らを取り戻していく――本作は魂の救済と再生の物語です。その過程が、心に響く読み心地を生み出しています。

本書の魅力は、富士山噴火という大災害を描くだけでなく、坂上田村麻呂による蝦夷征討を巧みに組み込んでいる点にもあります。岡野牧で育てられた軍馬が田村麻呂の愛馬となり、避難民たちが武具作りを命じられるなど、駿河という地理的背景を活かした物語構成が見事です。

3位 『佐渡絢爛』
佐渡絢爛
装丁:高柳雅人
装画:ヤマモトマサアキ

赤神諒(あかがみ・りょう)
徳間書店
2024年3月刊

♪ かつて汲めども尽きぬ水のごとく金銀を産出した佐渡。しかし、元禄の世にその産出量は激減し、鉱山は滅びの時を迎えようとしていました。そんな中、三十六人もの働き盛りの男たちが廃間歩(採掘を終えた坑道)で落盤事故に遭い、命を落とすという大惨事が発生します。その現場からは、血染めの大癋見(おおべしみ)の能面が発見されます。

新任の佐渡奉行を補佐する間瀬吉大夫と、若き振矩師(測量技師)の静野与右衛門が事件の謎に挑みます。

物語には、新任の佐渡奉行・荻原近江守重秀も登場。後に勘定奉行として幕府財政の立て直しに尽力した人物として知られる彼が、佐渡でどのような働きを見せるのか、注目が集まります。

佐渡の文化と風土が色濃く描かれた本作は、その背景を味わいながら、極上の謎解きを堪能できる一冊です。

佐渡金銀山に隠された秘密が明らかになるとき、歴史が大きく動き出します。事件を通して成長していく登場人物たちの姿も丁寧に描かれ、心に響く読後感を残す、読み応えのある作品です。

4位 『二月二十六日のサクリファイス』
二月二十六日のサクリファイス
装丁:芦澤泰偉
装画:西川真以子

谷津矢車(やつ・やぐるま)
PHP研究所
2024年8月刊

♪ 本書は、昭和11年に起きた二・二六事件にかかわった人物をミステリータッチで描いた歴史小説です。
林逸平は、上司の大谷敬二郎憲兵大尉と共に、二・二六事件の主犯と目される山口一太郎の取り調べを任されます。
軍人の家に生まれ、大物の閨閥に連なる山口が、なぜ今回の叛乱に関与したのでしょうか。技術系の異能を持ち、合理的な精神を備えつつ、青年将校とも深い関係にある彼。山口の魅力的な人物像が、この作品の面白さの源となっています。

独断専行でありながらも、いくつもの難事件を解決に導いてきた「忠犬」林逸平と、戒厳令司令部参謀・石原莞爾が異色のバディを組むことに。彼らは山口の過去を洗い出し、彼と事件の関わりを明らかにしていく様子は、第一級のミステリー小説さながらです。

本書では、個性的な軍人たちが次々に登場し、彼らが陸軍内で互いに策謀を巡らし、派閥抗争を繰り広げる姿が描かれます。
山口一太郎はなぜ、このような行動を取ったのでしょうか? その謎が解き明かされたとき、歴史の教科書には載らない陸軍の歪みが浮かび上がります。
このスリリングな展開こそが、昭和史ミステリーの醍醐味です。

5位 『海を破る者』
海を破る者
装画:荻原美里
装幀:征矢武

今村翔吾(いまむら・しょうご)
文藝春秋
2024年5月刊

♪ 今村さんの歴史小説は、物語を楽しむだけでなく、多くのことを考えさせてくれる作品です。
現代では、異なる文化や宗教、思想を持つ人々と交流することが当たり前になりましたが、その一方で、日本国内外で分断が進みつつあります。それは、ある場所では差別を、またある場所では戦争を生む原因にもなっています。

本作は、「なぜ戦わなければならないのか」を問いかけ、理解し合うことの大切さを改めて気づかせてくれる一冊です。

言葉が通じなくても、異なる考え方を受け入れ、相手を理解しようと懸命に努める主人公・河野六郎通有(こうの ろくろう みちあり)の姿が描かれています。彼は、2回目の元寇に立ち向かいながら、いくつもの事件や出来事を通して、バラバラだった家中の意思を一つにまとめ上げていきます。そして、やがて元の侵攻に立ち向かう姿には深い感動を覚えます。

物語の中で、六郎が密かに対話を重ねるのは、一族出身の僧侶であり、踊念仏の普及に尽力した一遍の存在。この対話が、戦争の物語に思索と静寂のひとときを与えています。

さらに、『蒙古襲来絵詞』で知られる肥後の御家人・竹崎季長の登場や、「河野の後築地(あとついじ)」と称された御家人たちの勇猛な陣立てなど、元寇の戦いの場面も見どころです。手に汗握る海戦の描写は圧巻で、海洋小説ファンにもたまらない内容となっています。

物語の後半からは緊張感が一層高まり、ページを繰る手が止まらなくなること間違いありません。終章まで一気に読み切ることができる、満足感のある一冊です。

6位 『火輪の翼』
火輪の翼
装画:山田章博
装丁:野中深雪

千葉ともこ(ちば・ともこ)
文藝春秋
2024年3月刊

♪ 十六歳の呉笑星(ごしょうせい)は、唐土で知らぬ者がいないほど人気を博した角抵(すもう)の力者(レスラー)の娘です。
ずば抜けた角抵の素質を持つ彼女は、父・朱鳥王(しゅちょうおう)のようなレスラーになることを夢見ていました。しかし、父は安禄山(あんろくざん)の挙兵直後に急死。兄弟子たちは討伐のため義勇兵に応募し、呉笑星は一人ぼっちになってしまいます。

そんな中、呉笑星は、食べ物を盗んで孤児たちの面倒を見ている十三歳の少年・福(ふく)と出会います。福は、かつての呉笑星の父に憧れ、角抵で稼いで孤児たちを養いたいという夢を語ります。

やがて、呉笑星の前に幼馴染みで叛乱軍の主柱の一人、史思明(ししめい)の長男・史朝義(しちょうぎ)が現れます。彼女が「なぜ挙兵したのか」と問いかけると、史朝義は「切り捨てられてきた者たちの居場所を作るためだ」と答えます。

物語は戦乱の時代を背景に、呉笑星と史朝義を中心として、福をはじめとする呉笑星を取り巻く人々や、史家の家族の姿を描き出していきます。さらに、史朝義の幼馴染みで、叛乱の首魁・安禄山の次男である安慶緒(あんけいしょ)も登場。彼らが織りなす人間模様が物語をいっそう深くします。

表向きには「奸臣を除き天子を助けるため」として戦いを起こした父たち。しかし、その本心は「われらの楽土を作る」という野望にありました。一方、戦乱を終結させようと奔走する息子たちとの対比が巧みに描かれています。この視点が、叛乱を起こした側から見た安史の乱をより鮮烈に描き出し、胸を熱くさせます。

戦乱の中で生きる人々の葛藤を通じて描かれる本作は、歴史エンターテインメントであると同時に、良質の少女小説としての魅力も備えています。そのため、一気読み必至の会心作と言えるでしょう。

「始めるよりも難しいのは戦争を終わらせること」。本作は中国史最大の戦乱「安史の乱」を、いかにして終結させるかをテーマに据えています。本を読む、歴史に学ぶ、そして行動する――。その重要性を今一度、深く考えさせられる一冊です。

7位 『虎と兎』
虎と兎
装画:岩本ゼロゴ
装丁:ジュン・キドコロ・デザイン

吉川永青(よしかわ・ながはる)
朝日新聞出版
2024年3月刊

♪ 会津出身の若い武士が西部開拓時代のアメリカに渡り、活躍する姿を描いたサムライ西部劇アクション小説です。
敗者の視点に光を当てる作品を数多く手がけてきた著者が、本作で描くのはアメリカ史の闇、インディアン戦争の悲劇です。

会津の少年・三村虎太郎は、英語がわからず、異国の地へ渡ることに不安を感じつつも、新政府の下で生きることを潔しとせず、未知の可能性に賭ける決意を固めます。こうして渡米した虎太郎は、カリフォルニア州の農園で働く移民となりました。

半年余りが経ったある日、虎太郎は、川で魚捕りをしていた際に森で行き倒れたインディアンの少女・ルルを助けます。ルルの部族は、昨年11月末、カスター中佐率いるアメリカ陸軍第七騎兵隊に襲撃され、ほとんどが虐殺されていました。さらに、カスター中佐の秘密を握ったルルは、彼に執拗に追われていると言います。

こうして、虎太郎とルルの決死の冒険の旅が始まります。

少年が少女と出会い、関係を築いていく「ボーイ・ミーツ・ガール」のパターンを取りながらも、二人の絆は恋愛ではなく、運命共同体としてのバディ関係へと発展していきます。その独特な関係性が、この物語の面白さを際立たせています。
命を懸けた極限の逃走劇を通して、虎太郎とルルは図らずも成長していきます。青春小説としての要素も存分に楽しむことができるでしょう。

本書では、ネイティブ・アメリカン(先住民)の視点からインディアン戦争を描き、アメリカの闇を鋭く浮き彫りにしています。そこに戊辰戦争で敗者となった会津の少年が加わることで、化学反応のようなドラマが生まれ、胸躍る冒険活劇へと昇華されています。

8位 『茨鬼 悪名奉行茨木理兵衛』
茨鬼 悪名奉行茨木理兵衛
装画:小副川智也
装幀:盛川和洋

吉森大祐(よしもり・だいすけ)
中央公論新社
2024年7月刊

♪ 三十二万石を有する雄藩・伊勢国津藩を舞台に、藩主・藤堂高嶷(とうどう・たかさと)に抜擢された若き下級武士・茨木理兵衛を主人公に据え、壮絶な改革の戦いを描いた物語です。

津藩は存続の危機に瀕し、財政再建を果たすため、理兵衛は新たに「菓木役所」を設立します。専売品の管理や農地改革、農民支援策など、次々と画期的な政策を実行していく理兵衛。しかし、その政策は理論的には正しいものの、実行方法が粗削りで、既存の秩序や権益を脅かすものでした。

これにより、庄屋や顔役、さらに藩の重役や家老たちから激しい反発を受けることになります。門閥重臣との対立は避けられず、ついには「安濃津地割騒動」と呼ばれる津藩最大の危機、寛政の百姓一揆へと発展していきます。

本書の魅力は、理兵衛が「貧しさは悪である」という信念のもと、改革に挑む姿をリアルに描き出している点にあります。信念に基づく政策が、実行力や経験の不足から悲劇を招く様子を、作者は鮮やかに描写しています。また、改革の結果、百姓たちから「茨鬼(いばらき)」と恐れられ、藩内外の敵に囲まれる理兵衛の姿が強烈な印象を残します。

そんな理兵衛を支えたのは、補佐役の川村加平次、妻の登世、幼馴染の奥田清十郎といった人々です。彼らの存在が物語に温かみを与え、単なる悲劇に留まらず、人として何が大切なのかを問いかける深い作品へと昇華させています。

理兵衛の挑戦を描いた本作は、困難の中で生き抜こうとする人々の姿を通して、読者に爽快な読後感をもたらす歴史小説となっています。

9位 『無間の鐘』
無間の鐘
装幀:芦澤泰偉
装画:朝江丸

高瀬乃一(たかせ・のいち)
講談社
2024年3月刊

♪ 明治二年春、とある岬の小屋。難破した廻船の乗組員十二人が救助を待っていると、修験者の扮装をした男が現れます。彼は自らを「十三童子(じゅうさんどうし)」と名乗り、「撞けば現世では富貴を得るが、来世では無間地獄に堕ちる」と伝えられる遠州小夜の中山・観音寺の梵鐘について語り始めます。そして、その鐘にゆかりのある小さな鐘を持ち歩き、人々に撞かせていると言います。

救助を待つ間、十三童子は「無間の鐘を撞いた者たちの話」を始めます。

・「親孝行の鐘」:無間の鐘を撞いた権蔵をめぐる悲喜劇。
・「噓の鐘」:放蕩で家族を不幸に陥れる父親と縁を切りたい錺職人・勘治の物語。
・「黄泉比良坂の鐘」:死んだ母親が恋しく、蘇ることを願う十歳の少年・平太の話。
・「慈悲の鐘」:恋しい男に振り向いてもらいたい船宿の娘・お楽の切なる願い。
・「真実の鐘」:無実で投獄された旧友を助けようとする小泥棒・根太郎の奮闘。

人々が鐘を撞く事情はそれぞれ異なり、連作形式で物語が紡がれていきます。一見するとバラバラな話のように思えるこれらのエピソードが、最後の「無間の鐘」で一つに収束します。

終盤では、難破船の水主の一人が鐘を撞き、物語のピースがつながり始めます。散りばめられた伏線が見事に回収され、まるでパズルが完成するような快感が得られる良質なミステリーとして楽しめます。

各話に張り巡らされた絶妙な伏線と、それを巧みに回収していく語りの面白さ。本作は、その魅力で読者を惹きつけてやみません。

10位 『独狼【どくろ】 念真流無間控』
独狼【どくろ】 念真流無間控
cover design:k2
cover illustration:ゴトウヒロシ

筑前助広(ちくぜん・すけひろ)
早川書房
2024年3月刊

♪ 人斬りの家に生まれ、悪をなす者を密かに討つ闇の始末屋として生きる平山雷蔵。
父の友人であり、廻国の武芸者でもある三瀬申芸(みつせ・しんげい)は、かつて筑前の大名家で首席家老を務めた人物で、父を亡くした雷蔵に始末屋の生業を教えた恩人でもありました。その申芸からの依頼で、娘・寧乃(やすの)を大名家の跡継ぎである円次郎とするため、江戸まで護衛する役目を引き受けることになります。

申芸は、六人一組の隊を三組に分け、それぞれに円次郎役をあてがい、西国街道、瀬戸内海路、山陰街道を通るルートで江戸を目指す策を立てました。
雷蔵が選んだのは、西国街道と山陰街道の間に広がる険しい山地の続く道程。こうして、深山幽谷を行く過酷な旅が始まります……。

雷蔵一行を狙う刺客団は、数でも力量でも圧倒的で、個性的な剣豪や忍びたちが次々と襲いかかります。そのたびに繰り広げられる激闘は、ページをめくる手を止めさせません。
圧巻のバトルが連続する対決シーンは、時代小説史に残る超弩級の名場面と言えるでしょう。

決死の江戸への旅を通して、じゃじゃ馬の姫・寧乃と、どこか斜に構え「今さら人助けなど」と達観していた雷蔵が、それぞれ人間として成長していきます。
二人の心の交流は、本作の重要な読みどころの一つであり、最後にはセンチメンタルな余韻が残る感動的な読後感を与えてくれます。

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