陰陽師 付喪神ノ巻
(おんみょうじ・つくもがみのまき)
夢枕獏
[平安]
★★★☆☆☆
♪陰陽師安倍晴明と貴公子・源博雅が都の闇の巣食う魑魅魍魎に挑むシリーズ第三弾。起承転結がシリーズを重ねるごとにパターン通りにはまり、読んでいて心地いい。また、この巻では、播磨国から現れた蘆屋道満(あしやどうまん)が初めて登場するのがファンにはうれしいところだ。
「ものや思ふと……」の話では、「忍ぶれど色にいでにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで」という平兼盛の歌が重要な意味を持っているが、確かこの歌は小倉百人一首にも入っていると思う。また、この歌は、昔、「赤頭巾ちゃん気をつけて」(庄司薫著・中公文庫)を読んで以来ずっと、ぼくの頭に残っている歌である。それはともかく、言葉には言霊があり、名は呪(しゅ)であるというが、歌もまた呪であるわけで、単なる和歌(散文)と軽視はできないパワーと重要さがあるのである。歌合(うたあわせ)や歌会始めという儀式が意味を持ち、後年公家が和歌を大切に扱ってきたわけが少しわかった。
ようやく、岡野玲子さんの「陰陽師」(スコラ刊、コミック・バーガー連載)をゲットする。評判に違わぬ質の高さ、夢枕さんの原作では、今いちピンと来なかった当時の衣装や小物がきっちり描かれていてイメージがより具現化した。一気に読むのがもったいなくて、一話一話噛み締めるように読んでいる。
物語●「爪仙人」大和の国から京まで、売りを運んでいた下人たちが、都に流行る怪異を話しているのを、源博雅は耳にした…。「鉄輪」貴船神社に丑の刻ごろ、白装束の女が歩いていた…。「這う鬼」やんごとなき筋の女に仕える男が、鴨川の橋のたもとで、被衣姿の女に、主人への届けものとして文箱のようなものを預けられる…。「迷神」源博雅は、安倍晴明と酒を酌み交わして、桜の花びらが落ちるのを眺めていた…。「ものや思ふと……」天徳四年に村上天皇によって内裏歌合が催され、そこで2つの事件が起こった…。「打臥の巫女」藤原道長の父・兼家に、晴明は瓜のことで頼まれたことがあった…。「血吸い女房」梅雨が終わった途端に、晴れの日が続き、雨が降らない日が、30日以上も続き、雨乞いが京の最大の関心事となっていた…。
目次■爪仙人/鉄輪/這う鬼/迷神/ものや思ふと……/打臥の巫女/血吸い女房/あとがき
装幀:木本百子
時代:天徳四年(960)
舞台:京。
(文藝春秋・1,238円・1997/11/30第1刷・317P)
購入日:98/01/03
読破日:98/05/31