花ふぶき 時代小説傑作選
(はなふぶき・じだいしょうせつけっさくせん)
結城信孝編
(ゆうきのぶたか・へん)
[アンソロジー]
★★★★☆
♪『鷺の墓』が面白かった新人作家今井絵美子さんの作品を収録しているアンソロジーということで、ゲット。もちろん、ほかに掲載されている作品の書き手もすごい。よくぞ、集めたという感じだ。一話終わるごとに、違う本に手を出したので、ひと月以上かかってしまった。今、もっとも脂の乗った仕事をされている作家ばかりで、しかも3編書き下ろしが収録された贅沢な極上時代小説集である。
「磯波」妹の幸せを願って身を引き独り身を続ける姉。磯の香りが漂うような静謐な文体の中で、姉妹の心の葛藤を描く佳品。
「お蝶」次郎長ものを得意とする諸田玲子さんが描く、次郎長の妻二代目お蝶。長編『からくり乱れ蝶』にも同様の場面があったように記憶する。
「寒紅おゆう」は書き下ろし。剣豪ヒーローが痛快な活躍ぶりを見せる人気シリーズの多い佐伯さんには珍しいしっとりとした情感あふれる市井小説。新たな面を見た気がする。
「ははのてがみ」は単行本未収録。許されない仇討ちの末に島流しになった息子へ送られ続けた母からのてがみ。田舎の母を思い出して、目頭が熱くなった。
「かくし子」杉本章子さんの代表シリーズとなった「信太郎人情始末帖」の第一作『おすず』に収録された話。市井話ながら、謎解きの要素が加わった話。
「廉之助の恋」は書き下ろし。『水斬の剣』などの主人公森島新兵衛が登場する。緊迫感あふれるチャンバラシーンと、実験的でミステリアスな構成に、作者の才気を感じる。
「今朝の月」は書き下ろし。仇討ちに参じる弟と姉の姉弟関係の描写がきめ細かくて見事。藤沢周平さんや乙川さんの作品が好きな方にはぜひおすすめしたい。
「代替わり」は単行本未収録。死神と呼ばれる高利貸しの老人と取り立て屋の大女、金を借りに来る者たちの人物造形にオリジナリティがあって面白い。
本作品集は文芸評論家の結城信孝さんの自信のセレクションであるが、ほかに女流時代小説家の作品を選んだ『浮き世草紙』と『合わせ鏡』があり、どちらも絶品だ。
物語●「磯波」海辺の村で女塾を営む奈津のもとへ、妹の五月が不意に訪れた…。「お蝶」清水一家の縄張り江尻宿に、官軍の隊士となった黒駒の勝蔵が通過することを明日に控え、次郎長の妻・お蝶は眠れない夜を過ごした…。「寒紅おゆう」おゆうは小名木川に架かる万年橋に立って、金町村から野菜を売りにきた光造の百姓舟を見下ろしていた…。「ははのてがみ」豆州小坂村の庄屋の息子五郎は、親の敵、伊三郎を刺し殺した。しかし、百姓には敵討ちは許されず、人殺しとして八丈島に配流された…。「かくし子」引手茶屋の千歳屋のおぬいのもとに、亡くなった主人の宇之助の隠し子だといって、その母親おさよと子の孝吉がやってきた…。「廉之助の鯉」森島新兵衛は、理由も告げずに同心仲間の笹山軍左衛門と浮島沼で剣で立ち合った…。「今朝の月」保科惣吾は、家老から仇討ちに向かう鷲尾朔之進に同行するように命じられた…。「代替わり」仕事をしくじった左官職人の順吉は平久川に身を投げようとしたところを、死神と呼ばれる高利貸しの清之助に助けられた…。
目次■磯波 乙川優三郎|お蝶 諸田玲子|寒紅おゆう 佐伯泰英|ははのてがみ 高橋義夫|かくし子 杉本章子|廉之助の鯉 鈴木英治|今朝の月 今井絵美子|代替わり 山本一力|編者解説 結城信孝
カバーデザイン:芹澤泰偉
解説:結城信孝
時代:「磯波」明記されず。「お蝶」慶応四年四月。「寒紅おゆう」明記されず。「ははのてがみ」天保十年。「かくし子」明記されず。「廉之助の鯉」明記されず。「今朝の月」明記されず。「代替わり」文政六年。
場所:「磯波」船尾村。「お蝶」江尻宿、美濃輪。「寒紅おゆう」万年橋、霊蓮院、海辺大工町。「ははのてがみ」深川万年町、八丈島。「かくし子」吉原、猿若町。「廉之助の鯉」駿州沼里、浮島沼。「今朝の月」宇内。「代替わり」ほか
(ハルキ文庫・720円・04/07/18第1刷・302P)
購入日:05/07/20
読破日:05/10/06