江戸名物からす堂(四) 山手樹一郎長編時代小説全集11
(えどめいぶつからすどう・4・やまてきいちろうちょうへんじだいしょうせつぜんしゅう11)
山手樹一郎
(やまてきいちろう)
[痛快]
★★★☆☆☆
♪からす堂の観相の名人ぶりが際立つ、シリーズ第4作。久しぶりにのほほんとした、肩の凝らない時代小説を読んだ。
「名物からす堂」は3篇の短篇(うき世の風、伊勢屋の娘、一万両の花園)で構成される。「春風からす堂」は、丹波亀山藩の御家騒動を描く中篇。「一万両の花園」の登場人物(御用達大津屋夫妻と自来也の音吉)が「春風からす堂」に話につながるという形になっている。
からす堂の女房・お紺の活躍するシーンが減ってしまったのは残念だが、最後に登場した名脇役・自来也の音吉がいい味を出している。
「からす堂は、十六文しか見料をとらず、どうやって生活をしているのだろうか」などと、考えてはいけない。明朗ものでは、主人公の下世話なことは考えずに、颯爽とした活躍ぶりを堪能すべし。
巻末に「江戸おもしろ事典」と題したコラムがついている。本巻では、「江戸のポルノ本」と題して、好色本や洒落本、草双紙などについてコンパクトにまとめられていて役にたち、ちょっと得した感じがする。
物語●「名物からす堂」からす堂の前に、二十四、五、いかにもやくざっぽい体つきのがっしりした男が、ひやかし半分に立ち止まった。男の本職は大工らしいが、女房に死に別れてぐれていた。その男にからす堂は、運をつかむ方を教えた…(以上、第一話 うき世の風)。からす堂の前に二人続けて不吉な相を持った男が現れた。一人は、四十男でなにか小商いをやっている店の主人といったいかにもずるそうな脂ぎった顔つきで、もう一人は二十ニ、三でどこかの手代とも見えて才気走った男だった…(以上、第ニ話 伊勢屋の娘)。からす堂のところに、御用達大津、屋の内儀が駕籠に乗って、小僧を供に相談にやってきた。主人の行方がわからなくなって後に、一万両の身代金の要求があったという…(以上、第三話 一万両の花園)。「春風からす堂」大津屋からまた呼び出しがあり、出かけた先で、さる大名家の家老を紹介された。ところが、その家老に、大難迫るの相がでていた…。
目次■名物からす堂|春風からす堂