おごそかな渇き
(おごそかなかわき)
山本周五郎
(やまもとしゅうごろう)
[短編]
★★★☆☆☆
♪ 黒澤明監督の遺作シナリオを映画化した『雨あがる』が公開される。それにともなって、文庫本のカバーが変った。表紙のどこにも収録作品集のタイトルである『おごそかな渇き』が書かれていないのが大胆。
戦時中に書かれた「蕭々十三年」から、絶筆となった「おごそかな渇き」まで、短編(「おごそかな渇き」は未完のためにちょっと長めの短編ぐらいのボリューム)10作品を収録。執筆年代にバラツキがあり、作者の考えの変化が汲み取れる。
話としては、「あだこ」と「かあちゃん」が山本さんらしさが感じられて好きだ。黒澤さんは、小編である「雨あがる」の映画化を思いつかれたものだ。「おごそかな渇き」は現代物。宗教や人生などがテーマのやや哲学的な物語で、未完のために、話の落ちつき先がわからず残念。
物語●「蕭々十三年」火事の迫った江戸城へ駆けつける岡崎城主、水野監物忠善の馬の口取りをめぐって二人の藩士が争った…。「紅梅月毛」慶長十年、本多忠勝の家中で馬術が堪能といわれる者ばかり十六人が城へ呼ばれた…。「野分」又三郎は、屋敷に帰って寝所に入ってから、米沢町の料理屋の仲居・お紋のことを思いだしくすくす笑い出した…。「雨あがる」三沢伊兵衛は、妻のおたよと街道筋の安宿に泊まっていた。外はもう十五日も雨が降り続いていて、上がるけしきがなかった…。「かあちゃん」飯屋で客たちが、お勝親子の銭勘定の話をしていた…。「将監さまの細みち」おひろは病気の夫を抱え、岡場所へ通いで勤めていた…。「鶴は帰りぬ」旅籠の相田屋に定連の飛脚の実(じつ)がやってきた…。「あだこ」曾我十兵衛は、恋人を失ってから自暴自棄になり、無気力な生活をしている親友・小林半三郎に腹をたて殴った…。「もののけ」因幡ノくに法美ノ郡の郡司・粟田ノ安形のもとに、つかみ峠のもののけを退治するために京から検非違使の一団がやってきた…。「おごそかな渇き」岐阜県との県境に近い福井の山奥の村の村長の屋敷で男子出生の祝宴が催されていた…。
目次■蕭々十三年|紅梅月毛|野分|雨あがる|かあちゃん|将監さまの細みち|鶴は帰りぬ|あだこ|もののけ|おごそかな渇き|解説 木村久邇典
題字:黒澤明
解説:木村久邇典
時代:「蕭々十三年」明暦三年。「紅梅月毛」慶長十年。「「おごそかな渇き」昭和四十二年。
場所:「蕭々十三年」岡崎。「紅梅月毛」桑名。「野分」米沢町、徳右衛門町。「かあちゃん」竪川の河岸通り。「将監さまの細みち」赤坂田町、木挽町七丁目。「おごそかな渇き」福井県大野郡山品村ほか。
(新潮文庫・590円・71/01/25第1刷・99/12/25第45刷・416P)
購入日:00/01/22
読破日:00/04/04