ながい坂 上・下
(ながいさか・じょうげ)
(やまもとしゅうごろう)
[青春]
★★★★☆☆
♪黒澤明監督の遺作として、『雨上がる』に注目が集まっているが…。
本書は、山本周五郎さんの最後の長編小説。解説によると、自身の半生の総決算として、自叙伝を書くつもりで取り組んだ意欲作とのこと。「人生は重い荷を持ってながい坂を歩くに似たり」という“徳川家康”的な生きかたが全編のモチーフとなっている。
読み進むうちに、いつしか主人公の三浦主水正に共感を覚え、ともにながい坂である人生を送っていくような、第一級のビルドゥングロマンス(青春小説)の醍醐味を満喫できた。人生の晩年にこんな作品を遺せる山本周五郎さんはやはり偉大だったのだと、再認識した次第だ。
また、読んでいる途中で、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』や『風の果て』、乙川優三郎さんの『椿山』のことも思い出した。気分が滅入って落ち込んだときにまた読んでみたい。
舞台となった七万八千石の藩は、明示されていず、架空のもののようだが、美濃国加納藩あたりがモデルであろうか。
物語●徒歩組二十石ばかりの組頭(平侍=下級武士)の子に生まれた小三郎(後の三浦主水正)は、八歳の時に偶然経験した屈辱的な事件に深く憤り、人間として目覚める。学問と武芸に励むことでその屈辱をはね返そうとした小三郎は、さまざまな羨望や嫉妬、妨害にもめげずに、成長して藩中でも異例の抜擢をうける…。
目次■なし