(まつかぜのもん)
(やまもとしゅうごうろ)
[短編]
★★★☆☆
♪「ビッグコミック」誌に掲載された劇画化(画・池上遼一)された、同作品を読んで圧倒的な端正さに惹かれて、どうしても読みたくなった。原作に忠実だったことがよくわかった。
この短編集は、初出誌も時代もテーマもばらばらなだけにかえって、作者の奥行きの広さを感じさせる。意外な驚きの連続。とくに最後の「失恋第五番」(なぜか名曲をテーマにした現代小説を想像していた)はいい意味で裏切られた。伝声管(ボイス・パイプ)の正体がわからず、昭和29年頃のオフィスの様子がとても気になる。だれか知っていたら教えてほしい。
物語●「松風の門」寛文十年伊予国宇和島・伊達大膳大夫宗利は、幼い日に剣術の相手池藤小次郎に右の眼を傷つけられた・・・「鼓くらべ」昭和十六年の少女雑誌に掲載されたということで、いささか説教臭がある。「狐」天守にでるという妖怪の噂を鎮めた平凡なる婿殿の機知。「評釈堪忍記」ユーモア小説、登場人物の命名がステレオタイプか。「湯治」時代設定がよくわからず、入り込めなかった。「ぼろと釵(かんざし)」舞台の一幕をおもわせるつくり。初恋の娘はいずこに。「砦山の十七日」城代を討ち取った七人の若侍たちが立てこもる砦に婚約者の娘が加わって始まる密室劇。「夜の蝶」主家の大金を持ち逃げした手代、実は・・・「釣忍」兄に家を継いでもらいたくて、わざと勘当され棒手振りの魚屋をはじめた佐太郎。「月夜の眺め」群集心理をうまくえがく。「青べか物語」を思わせる漁師の町のエピソード。「薊」過去と現在が同時に進行する、わずかにエロチックな武家もの。「醜聞」本作品集中でいちばん面白い作品。本源的な人間(武士)のあり方を描く。「失恋第五番」ハードボイルド現代(昭和29年ごろだが=京極夏彦の小説の時代と同じ)小説。特攻隊くずれの男たちがはじめた”平和の特攻隊”とは。