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損料屋喜八郎始末控え

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損料屋喜八郎始末控え

損料屋喜八郎始末控え

(そんりょうやきはちろうしまつひかえ)

山本一力

(やまもといちりき)
[痛快]
★★★★☆☆

『蒼龍』で1997年に第77回オール讀物新人賞受賞の山本一力(やまもといちりき)さんの初の単行本。山本さんからはメールやはがきをいただき、刊行が待望されていた作品。損料屋(そんりょうや)とは、夏の蚊帳、冬の炬燵などの季節ものから鍋、釜、布団までを賃貸しする、今で言えば、レンタルショップ。
主人公の喜八郎は、損料屋の主人といっても、まだ三十前で、前身は北町奉行所の蔵米方与力・秋山久蔵配下の同心。何やらいわくがありそうなキャラクター設定がうまい。ちょうどバブル(田沼時代)からその後の不況(松平定信)の時代を舞台に、札差の世界を描き、興味深く読むことができた。

個人的に好きな話は、「いわし祝言」である。経済ものからは少し離れ、良質な市井ものとして仕上がっている。このシリーズのなかで別の光彩を放つとともに、シリーズ全体の奥行きを与えているように思われる。作者は、深川にお住まいということで、地元の富岡八幡の本祭の神輿のシーンの臨場感が楽しい。

実は読み終えてジャンル分けに困ってしまった。札差の世界を描いた経済ものであり、深川情緒にあふれた市井ものであり、奉行所の米方筆頭与力が登場するので捕物の変種ともいえそうだ。でも一言でいえば、〈痛快もの〉といったところか。いずれにしてもオリジナリティのある作品で、次回作が待ち遠しい。

物語●「万両駕籠」喜八郎は、先代の時に多大な恩義を受けた札差・米屋政八の店じまいに力を貸すことになった…。「騙り御前」棄捐令で、旗本への多額の貸金を帳消しにされた、札差・伊勢屋四郎左衛門と、笠倉屋平十郎は、意趣返しの企みをこらしていた…。「いわし祝言」喜八郎が懇意にしている料理屋・江戸屋の女将・秀弥から、料理人の清次郎のことで相談を持ちかけられた…。「吹かずとも」深川富岡八幡の祭礼を1カ月後に控えたころ、蔵前の札差・笠倉屋平十郎は、番頭とひたいを寄せ合って、金の工面に頭を悩ませていた…。

目次■万両駕籠|騙り御前|いわし祝言|吹かずとも

装画:歌川芳幾「茲三題噺集会」(個人蔵)
装丁:多田和博
時代:天明八年(1788)8月
場所:深川富岡八幡、新旅篭町、柳橋、猿屋町、蓬莱橋、冬木町、平野町、今戸町ほか
(文藝春秋・1,571円・00/06/10第1刷・312P)
購入日:00/06/10
読破日:00/06/17

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