山田風太郎 明治小説全集(一)、(二) 警視庁草紙 上・下
(やまだふうたろうめいじしょうせつぜんんしゅう1、2 けいしちょうそうし)
山田風太郎
(やまだふうたろう)
[明治]
★★★★☆☆
♪噂に違わない、超面白本。
クラクラしそうなオールスターキャスト。西郷隆盛、大久保利通、山岡鉄舟から若き日の森鴎外、清水の次郎長、元岡っ引き半七まで実在の人物、架空の人物が総出演するが、とくに雲霧お辰と組んで、幕末に悪行の限りを尽くした元旗本の青木弥太郎や、あの新選組の斎藤一が見逃せない。
明治初頭の時代と風俗が随所に活写されていて興味深い。とくに維新の元勲たちの金銭欲、権力欲、色欲などスキャンダラスな実像が話を面白くしている。典厩五郎さんの「上野介の秘宝」にも登場した、長州出身の井上馨がとんでもなく厭らしくて悪い奴に描かれていて、バットマンのシュワちゃんみたいでいい。明治ものもなかなかいいなぁ。
創生されたばかりの警視庁に対して、元南町奉行で隅の隠居(伝馬町の元牢名主の異名)と自称する闊達な駒井相模守信興と、明治の世を拗ねて芸者お蝶のヒモをやっている元同心千羽兵四郎、昔ながらの髪結い床をやっている半七の最後の手先、かん八が組んだ旧パワーの反骨ぶりが、当時の人々の気持ちを代弁していて、当時のいい加減さを浮き彫りしている。
物語●元旗本が殺され、隣に住む落語家三遊亭円朝に嫌疑がかけられた。男は、血糊で目張りされた密室内で何者かに刺殺されたらしい。事件当夜に油戸巡査が見かけた、牡丹の絵が描かれた人力俥に乗った謎の美女の正体は?薩摩出身の川路利良率いる警視庁と、元南町奉行、元同心、元岡っ引きとの知恵比べが展開される。
目次■明治牡丹燈篭/黒暗淵の警視庁/人も獣も天地の虫/幻談大名小路/開花写真鬼図/残月剣士伝/幻燈煉瓦街/数寄屋橋門外の変/最後の牢奉行/関連年表(上巻)
痴女の用心棒/春愁 雁のゆくえ/天皇お庭番/妖恋高橋お伝/東京神風連/吉五郎流恨録/皇女の駅馬車/川路大警視/泣く子も黙る抜刀隊/関連年表/解説―和田忠彦(下巻)
解説:和田忠彦
時代:明治六年(1873)八月
(ちくま文庫・各900円・97/5/22第1刷・上490P、下474P)
購入日:97/6/25
読破日:97/7/27