[amazon_image id=”4048732218″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]雷桜[/amazon_image]
雷桜
(らいおう)
(うえざまり)
[伝奇]
★★★★
♪一作ごとに新しい面白さを見せてくれる作者の新作。宇江佐版『もののけ姫』というコンセプトを聞き、期待。
本を一冊読み終えると、習性で、ジャンル分けと★付けをしてしまう。この物語では、そのジャンル分けではたと困ってしまった。通常なら伝奇ロマンといったところだろうか。でも、ヒロインの庄屋の愛娘・遊(ゆう)の生き様や恋情が、女性作家らしい細やかな視点で、凛と描かれていて、女性小説という感じもする。捕物小説の若手実力者という印象の強い、宇江佐さんの新境地が開けたように思われる。
遊のすぐ上の兄・助次郎が、江戸で仕えることになる、将軍家斉の子で、御三卿の清水斉道(徳川斉順か)の若殿様ぶりがうまく描かれていて、興趣を深めている。御三卿の中では影が薄い清水家を選んだのが面白い。
物語●江戸から歩いて三日ほど、西にある瀬田村。瀬田村は、街道沿いで風光明媚なところにあり、島中藩と岩本藩の境界に位置していた。瀬田村をめぐって二つの藩の争いに巻き込まれていた。
そんな瀬田村の庄屋・瀬田助左衛門の娘・遊が激しい雷雨の夜に、何者かに連れ去られるという事件が起こった。遊は、助太郎、助次郎の二人の息子の下に、ようやく生まれた娘で、男系の瀬田一族に久々に生まれた女子で、助左衛門にとっては眼に入れても痛くないほどの可愛がりようだった。
瀬田家の眼前には、村の象徴ともいうべき瀬田山が迫るように聳えていた。しかし、その山は修験者さえも敬遠する危険なやまであり、村人は山の奥に入ることを戒められ、瀬田村に生まれたときから住んでいる助左衛門さえ、山の輪郭を詳しく知らなかった。遊は、瀬田山に連れ去られてのではないかという可能性が浮かんだが、それは絶望的な事態だった…。
目次■なし