君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話
(きみをのせるふね・かみゆいいさじとりものよわ)
宇江佐真理
(うえざまり)
[捕物]
★★★★☆
♪家族が新聞広告を見て読みたそうにしていたので、即ゲット! 「髪結い伊三次捕物余話」シリーズの最新作。帯によると、伊三次が仕える不破友之進の息子、龍之介が元服して見習い同心に。時の経つのは早いものだなあ。
今回はちょっと切なくさわやかな余韻が残った。伊三次が小者を務める北町奉行所定町廻り同心不破友之進の息子、龍之介が元服して見習い同心として出仕を始める。同じ頃、江戸の町には乱暴狼藉を繰り返す本所無頼派が出没していた…。
子どもから大人へと成長の過程にある少年、龍之介(元服後は龍之進)を中心に綴られた六編の連作は、恋、友情、将来の夢など、われわれが忘れかけていた若き頃の日々を思い起こさせる。作中で龍之進が言う台詞が泣かせる。
「あぐりさんを乗せる舟になりたかった。そうしたら、浅草まで送ってやれたから。ばかでしょう? そんなことを考えるなんて」
「君を乗せる舟」(P.300)
宇江佐真理さんには、他にも『春風ぞ吹く―代書屋五郎太参る』や『おぅねぇすてぃ』など、青春時代小説の傑作がある。
物語●「妖刀」伊三次は、隠密廻り同心緑川平八郎の知り合いの道具屋越前屋がらみの捜索を命じられた。お屋敷奉公をしていた老女から、越前屋に持ちこまれた刀剣がけっこうなものばかりで、越前屋が不審を感じたためだった…。「小春日和」本所緑町辺りでお尋ね者を捕まえる手伝いをした男は、陸奥国弘前藩に奉公していると答えたが、それは仔細があって偽名だった…。「八丁堀純情派」不破友之進の息子・龍之介は、まもなく十四歳になり、見習い同心として出仕する前に、元服をすることになった…。「おんころころ……」冬木町寺裏の仕舞屋で、夏でもないのに会談話が持ち上がっていた。その仕舞屋に紫色の小袖を着た娘が入っていくが、仕舞屋には日とが住んでおらず、戸締りがされていて娘が入り込める隙はなかった。伊三次は、噂の娘の正体を突き止めることを命じられた…。「その道 行き止まり」不破龍ノ進(龍之介)はお務めの傍ら、本所無頼派と呼ばれる乱暴狼藉を働く若者たちの探索を密かに進めていた…。「君を乗せる舟」龍ノ進の初恋の女性、あぐりに縁談が持ち上がった。あぐりの父は、二年ほど前に金貸しの勾当殺しで死罪の沙汰を受けていた…。
目次■妖刀|小春日和|八丁堀純情派|おんころころ……|その道 行き止まり|君を乗せる舟
装丁:坂田政則
時代:明記されず
場所:池之端茅町、浅草寺前、中ノ郷村、緑町二丁目、亀島町、日本橋佐内町、高橋近く、京橋、呉服橋御門内、柳橋、冬木町、横網町、本材木町、両国橋ほか
(文藝春秋・1,524円・05/03/30第1刷・301P)
購入日:05/04/07
読破日:05/05/03