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黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話

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黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話黒く塗れ 髪結い伊三次捕物余話
(くろくぬれ・かみゆいいさじとりものよわ)
宇江佐真理
(うえざまり)
[捕物]
★★★★☆☆

「髪結い伊三次捕物余話」シリーズの第五作。『君を乗せる舟』を入手するまで、うかつにもこの作品を読んでいなかったのに気づかなかった。慌てて追加発注。宇江佐さんはタイトルの付け方にたいそう力を入れておられるそうだが、気にして、各話のタイトルを見ていくと、どれも読みたい心をくすぐるようなものばかりだ。表題作もローリングストーンズの曲名みたいで、かっこいい。

シリーズ第五作目は、伊三次とお文の間に赤ちゃんが生まれ、二人の間の愛情がいかに深まっていくかが最大の見どころ。周囲の人たちもそんな二人を温かく見守り、作品を読んでいて何とも心地良くほのぼのとした安らぎを覚える。お文の出産を描く、「月に霞はどでごんす」は圧巻。また、小さな幸せをさがす若い二人を描く、「慈雨」を読んでいて目頭が熱くなった。

「髪結い伊三次」シリーズは、捕物小説の形態を取っていているが、実は伊三次とお文を中心にした愛情や人情にスポットライトを当てた市井小説である。そのため、読後の幸福感・充実感が大きい。

ところで、本作品を読むまで、文化三年に北町奉行所が常盤橋御門内から呉服橋御門内に移転したことに気づかなかった。江戸の産科のことなど、宇江佐さんは、いろいろと江戸のことを調べて書かれているので、読んでいてためになることが多い。

物語●「蓮華往生」浅草・天啓寺で、境内に金箔を施した大蓮華を備え、この世に未練もなくひたすら極楽往生を願う老人などが深く帰依していた。隠密廻りの同心、緑川平八郎の妻、てやもその一人だった…。「畏れ入谷の」定町廻り同心、不破友之進と息子の龍之介は、西両国広小路で三人組の武士に殴られてる自棄を起こしている男を見かけた…。「夢おぼろ」伊三次は、新築の普請現場で「一生の不覚」が口癖の大工朝太郎と久々に再会した。朝太郎は、伊三次の死んだ父親と半年ばかり一緒に仕事をしたことがあった…。「月に霞はどでごんす」伊三次は、不破の指図で、渡りの太鼓(幇間)の桜川笑助を人斬り請け負いの一味に噛んでいるのではないかと疑い、探っていた…。「黒く塗れ」伊三次は、箸屋の主、翁屋八兵衛から、妻のおつなが店の金を持ち出し、寺に運んでいるのではないかという悩みを打ち明けられ、探ってみることにした…。「慈雨」不破家の掛りつけの医者松浦桂庵の母親が深川不動のご開帳に出かけてそのまま行方不明になったという。伊三次は不破に依頼されて、行方を捜すことに…。

目次■蓮華往生|畏れ入谷の|夢おぼろ|月に霞はどでごんす|黒く塗れ|慈雨

装画:安里英晴
装丁:坂田政則
時代:永田備後守正道が北町奉行の頃(文化8年4月~文政2年4月)
場所:浅草寺町、日本橋佐内町、米沢町、亀島町、西両国広小路、門前仲町、室町、馬喰町、稲荷新道、柳原土手、入谷鬼子母神、京橋大根河岸、回向院、南八丁堀あさり河岸ほか
(文藝春秋・1,524円・03/09/15第1刷・05/03/05第4刷・316P)
購入日:05/04/14
読破日:05/04/23

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