さんだらぼっち 髪結い伊三次捕物余話
(さんだらぼっち・かみゆいいさじとりものよわ)
宇江佐真理
(うえざまり)
[捕物]
★★★★☆
♪『幻の声』『紫紺のつばめ』『さらば深川』に続く、「髪結い伊三次捕物余話」シリーズ第4弾。装画が東啓三郎さんから安里英晴さんに変わった。何かあったのか、ちょっと気になる。
前作で深川の家が焼かれて、伊三次と晴れて夫婦になったお文。『御宿かわせみ』のように、いよいよ安定した生活に入ると思いきや、まだまだ一波瀾二波瀾ありそうな雲行き。思春期を迎えた不破の息子・龍之介、お文の元の女中おみつの妊娠、伊三次の昔なじみの女・お喜和の登場…。
タイトルの「さんだらぼっち」とは、米俵の両端に当てる藁の蓋のこと。桟俵法師(さんだわらぼうし)が訛ったもの。髪結い伊三次の女房になったお文を主人公とするこの話は、タイトルの語感が面白く印象的なばかりか、物語自体もせつなくて泣かせるところがあり、記憶に強く残る一編である。タイトルといえば登場人物たちがいよいよ生き生きと輝き出した今回、ようやく、「捕物」の後に「余話」が付いている意味がわかった。作者は、捕物を描くだけでなく、その周辺にあるものもあわせて描きたいという意図の表れであろう。
物語●「鬼の通る道」北町奉行所定町廻り同心不破友之進の十二歳になる息子・龍之介は、剣術の腕は母のいなみの血筋を引いたのか、他の少年たちより抜きん出ていたが、学問になるとそうはいかなかった。最近、近所の手習いの師匠の所から小泉翠湖という儒者の開いた私塾に移ったばかりだった…。「爪紅」大川端に女の土左衛門が浮いたと知らせを受けて、伊三次は現場に足を運んだ。死体は貧しげな身なりの若い娘だったが、指先に爪紅をさしていた。爪紅は昨年流行したが、近頃はあまり目にしなくなったという…。「さんだらぼっち」廻り髪結いの女房になったお文の夏の楽しみは裏店の指物師が丹精している朝顔を眺めることと、井戸の水を盥に入れ、浴衣や下着をざぶざぶと洗うことだった。そして洗濯用の糊を買いに、茅場町の木戸番の店に行き、そこの女房と埒もない世間話を交わすのも楽しみになっていた…。「ほがらほがらと照る陽射し」伊三次は、古くからの贔屓の客で、今は深川の入船町で小間物屋を営むお喜和の店にひと足先に入って行った男の後ろ姿に見覚えがあった。浅草界隈を根城にしている掏摸の直次郎だった…。「時雨てよ」裏店から佐内町の一軒家に引っ越した伊三次夫婦は、同じ町内の箸屋「翁屋」の一族と知り合いになり、さらに新場の魚屋「魚佐」に奉公している岩次とその息子の九兵衛と知り合いになった…。
目次■鬼の通る道|爪紅|さんだらぼっち|ほがらほがらと照る陽射し|時雨てよ|文庫のためのあとがき|解説 梓澤要