(おぅねぇすてぃ)
(うえざまり)
[明治]
★★★★
♪宇江佐さんの初めての明治ものである。今まで江戸の市井を描いてきた作者が、いかに明治という激動の時代をを描くか興味津々。解説が皆川博子さんというのもうれしい。
通詞(通訳)を目指し、英語を学ぶ若者・雨竜千吉を主人公とした青春小説。都落ちのような気分で、函館にやってきた千吉が出会った、遊女小鶴、宣教師ジャン・フィリップ、通詞財前卯之吉が、いきいきとして描かれていて魅力的だ。作者が住む町ということで愛着をもって描かれていて、空気の臭いや吹く風の冷たさなど、函館の情景が何とも美しい。
「おぅねぇすてぃ」というタイトルは、正直、真心という意味で、文中で使われているが、主人公の千吉やお順に共通する、不器用だが好ましい生き方のように思われる。
「明治初頭の風俗や時勢も丹念に書き留められていて興味深い。仲間に殿様と呼ばれる水野是清には、モデルがあるのだろうか? 少し調べてみたいところだ。
物語●明治五年、雨竜千吉(うりゅうせんきち)は、叔父の加島万之助が設立した「日本昆布会社」の函館支社にやってきて半年がたっていた。御家人の息子として育った千吉は、父が贔屓にしていた日本橋安針町の唐物屋の娘・お順と恋人の関係だった。お順の父親平兵衛は、幕府の通詞(通訳)をしていた。千吉は、異人と流暢に話をするのを見て、通詞になりたいと思った。平兵衛に紹介さらた、横浜のイギリス人貿易商マイケル・ケビンのもとで、袴田秀助、一万八千石の大名家の跡取り水野是清、絵師の弟子・才門歌之助らと、英語を学んだ。
千吉は、父母を扶養するために働かなければならなくなり、叔父の仕事を手伝うために、函館に向かった。友人の袴田の手紙で千吉は、お順がアメリカ人の洋妾(らしゃめん)になり、築地に住んでいるという…。
目次■可否/おぅねぇすてぃ/明の流れ星/薔薇の花簪/慕情/東京繁栄毬唄/文庫のためのあとがき/解説・皆川博子