(ししのとうげ)
(うえまつみどり)
[幕末]
★★★★☆☆
♪勤王を掲げて挙兵し、明治維新の先駆けとなった幕末の「天誅組」の激闘を描いた歴史長編。歴史的に評価の低い人物に注目して、その声を代弁し事績を明らかにする作品が多い植松さんが、この作品で取り上げてスポットライトを当てたのが、公家の中山忠光と、天誅組で行動を共にした勤王志士たちです。
文久三年(1863)、帝の威光を示す行幸の先鋒隊を命じられた公家の中山忠光は、吉村寅太郎ら勤王志士と大和で挙兵した。五条の代官所を襲撃し新政府樹立を宣言するが、親幕派の公家や薩摩藩などにより朝敵とされ、幕府方大軍からは猛追を受ける……。
実は、「天誅組」の事績についても、不発に終わったことぐらいでほとんど何も知りませんでした。自身が心情的に佐幕派(幕府寄り)ということもあり、これまで、倒幕派(勤王派)の視点で描かれた物語に、共感を覚えることが少なかったので、正直、この『志士の峠』が楽しめるかどうか不安な部分もありました。
しかし、それは杞憂に過ぎず、読み始めたら、若き主人公の中山忠光の魅力と志士たちのまっすぐな生き様に惹きつけられて、一気読みすることができました。
忠光の率いる天誅組は、勤王のための先鋒隊として挙兵しながら、逆に親幕派の公家や薩摩藩などにより朝敵とされてしまいます。そして四方から幕府側各藩の大軍に攻め込まれ、満身創痍の中、勤王の思いが篤い、南朝ゆかりの大和南部の地を逃走していきます。四十日間にわたる濃密な闘いの日々を通して、男たちの信念や友情が活写されています。
NHK大河ドラマ『花燃ゆ』で、明治維新を前に、勤王の志半ばで命を散らしていった若者たちに注目が集まっていますが、彼らほど著名ではありませんが、こんな志士たちがいたことも覚えておきたいと思います。
本書を読んで、もっと天誅組について知りたくなり、彼らを描いた時代小説(大岡昇平さんの『天誅組』という作品があるようです)を読みたくなりました。また、五条や十津川村など、ゆかりの場所も訪れてみたくなりました。
目次■第一章 鐘、鳴り響く/第二章 五条新政府/第三章 天ノ川辻にて/第四章 十津川郷士参上/第五章 高取城夜襲/第六章 白銀岳本陣/第七章 木枯らし吹く/第八章 伯母峰峠越え/第九章 最終決戦の地/第十章 なお続く