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燃えたぎる石

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燃えたぎる石
燃えたぎる石
(もえたぎるいし)
植松三十里
(うえまつみどり)
[幕末]
★★★★☆

この本を読むまで、石炭業の祖・片寄平蔵のことを知らなかった。とはいえ、ウィキペディアにも2012年2月23日時点では、その掲載がない。常磐炭田の開発者として、地元福島(磐城)では認知されている偉人といったところか。この人がいなかったら、スパリゾートハワイアンズも映画「フラガール」もなかったわけだ。
うつくしま電子事典 人物編・片寄平蔵

「石炭の切り出し口のまとまったものを、九州じゃ炭田というらしい。たとえば筑前、筑後から豊前あたりまでを、国をまたいで筑豊炭田とよぶそうだ」
 そして平蔵は、自分の考えを口にした。
「だから俺たちの石炭の切り出し場を、ひとくくりにして、常磐炭田と称しちゃどうだ。常陸と磐城の頭文字だ。石炭を見つけて売り出したのは、喜八さんの方が早い。だから常陸の常の字を先にして、常磐だ」
(『燃えたぎる石』P.124より)

植松さんの描かれている片寄平蔵の人物像がなんともいい。貧しい開拓農民の子として生まれ、口減らしのために、材木商をしている伯父の養子となる。極貧生活の苦しさをよく知る平蔵は、働き場所を作ることが人助けになることを理解している。

そんな平蔵にとって、石炭の発掘から選別、運搬に多くの人手が必要な石炭業経営は情熱をかけるに値する仕事。そんな彼を多くの試練が襲う。落盤事故で心を痛め、悩みぬく彼に共感を覚えた。

阿片戦争で、日本と同じような小さな島国のイギリスが清に勝利したことを知り、西洋の先端技術に眼を向けた平蔵。そんな彼の先進的な言動と対照的に描かれるのが、尊皇攘夷の浪人たち。『咸臨丸、サンフランシスコにて』や『群青』に通じる、幕末時代小説でもある。隠れたヒーローの半生記としてだけでなく、幕府海軍で活躍した小野友五郎や谷田堀景蔵らも登場し、史実を巧みに織り込みながら激動する時代を鮮やかに描いた時代小説でもある。

主な登場人物
片寄平蔵:磐城・四倉の材木店古川屋の主人
利兵衛:平蔵の伯父
お孝:利兵衛の娘
熊蔵:平蔵の長男
高崎今蔵:平蔵の幼なじみで仕事仲間
明石屋治右衛門:紀州藩御用の木場の材木商
小野友五郎:笠間藩の算術家
田村巌雄:笠間藩の用人
おキミ:田村の姪
ぽん太:深川芸者
お梅:子守奉公の娘
長太:お梅の弟
竹次:お梅の下の弟
お末:お梅の妹
清次:お梅の父
お米:お梅の母
加納作次郎:湯長谷藩の御用商人
大越甚六:白水村の名主
神永喜八:水戸藩御用商人
竹下清右衛門:薩摩藩士で反射炉の鋳立役
大島高任:南部藩士で反射炉の鋳立役
福井仙吉:薩摩藩の抱え陶工
増田安次朗:川口の鋳物師
谷田堀景蔵:観光丸の艦長
山本金次郎:蒸気方の士官
永井尚志:軍艦教授所総督
田辺太一:昌平黌出身の外国奉行所役人
牧野備後守貞直:笠間藩士
歌川貞秀:町絵師。三代目歌川豊国の弟子
オールコック:イギリス総領事
ブルック:アメリカの海軍大尉でフェニモア・クーパー号の艦長
ケンドール:医師
吉岡勇平:咸臨丸公用方

物語●磐城の貧しい開拓農民の子に生まれた平蔵は、四歳のころに父母と別れて、材木商の古川屋の主で伯父の利兵衛に引き取られて育った。長じて、利兵衛の娘のお孝と夫婦になり、幕府に巨木を納入させるまで古川屋を大きくさせた。
平蔵は、商売仲間の明石屋治右衛門が貸してくれた発禁本の『海外新話』を読んで阿片戦争の現実に衝撃を受ける。そして、イギリスが小国ながら清国に勝利したのは産業革命によるものである。そして、その先端技術(蒸気機関)を支えているのが石炭であることを知る…。

目次■燃えたぎる石/解説 末國善己

カバーイラスト:宇野信哉
カバーデザイン:鈴木久美(角川書店装丁室)
解説:末國善己
時代:嘉永二年(1849)
場所:出羽・岩崎、磐城・四倉、江戸深川、笠間藩下屋敷、千住大橋、永代橋、神奈川宿沖合い、湯長谷藩白水村弥勒沢、那珂湊、川口、江戸湾、築地講武所、横浜、笠間藩上屋敷、勿来、ほか
(角川書店・角川文庫・667円・2011/04/25第1刷・297P)
入手日:2011/11/18
読破日:2012/02/20

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