織江緋之介見参 悲恋の太刀
(おりえひのすけけんざん・ひれんのたち)
上田秀人
(うえだひでと)
[剣豪]
★★★★☆
♪宝蔵院流一刀流の遣い手で、将軍家見聞役・三田村元八郎が活躍する時代小説『竜門の衛』(徳間文庫)が抜群に面白かった上田秀人さんの新シリーズ。御免色里の吉原が舞台ということで、どんな物語が展開するのか期待して読み始めた。
浅草日本堤への移転前の旧吉原を舞台にした作品というと名作『吉原御免状』(隆慶一郎著・新潮文庫)が、まず思い出される。本書はまさにそのオマージュというべき作品。色里にぶらりとやってきた正体不明の若侍、しかも世間ずれしていない剣の名手で、たちまち遊女屋の主人や遊女たち、亡八たちにも好意を持たれる。『吉原御免状』のヒーロー松永誠一郎を思い出すキャラクターが、この作品の主人公織江緋之介である。その実体は、読んでのお楽しみ。作者の着想の面白さを知ることになる。
後半で、緋之介の実体が明かにされるとともに、いろいろな出来事が表面化し、活発化して、物語がヒートアップし、一気に最後まで面白く読ませてくれる。
柳生宗冬や小野派一刀流の二代目小野次郎右衛門忠常らが登場する剣豪小説であるとともに、幕閣の重鎮松平伊豆守信綱の存在がカギを握る伝奇小説でもある。
また、緋之介に思いを寄せる遊女桔梗、御影太夫、そして元許嫁の織江の三人の女性がきっちり描かれていて、物語に彩りを与えている。吉原という悪所を舞台にしながらも、良質のエンターテインメント時代小説にしあがっている。
何ゆえ、吉原は移転したのかが作品のキーになっている。
物語●幕府から移転問題をつきつけられている御免色里の吉原に、若侍・織江緋之介がやってきた。吉原一の遊女御影太夫を頼みたいとおもむろに慶長大判を取り出したかと思えば、遊女屋で取り籠った男まで鮮やかに斬ってみせた。また、御影太夫の妹女郎の桔梗を揚げながらも、抱かなかった。遊女屋いずやの主総兵衛に気に入られ、遊女屋に逗留することになったが、次から次へと謎の刺客に襲われることに。一体何者なのか?
目次■第一章 東都の艶/第二章 遊里の明暗/第三章 江戸の華/第四章 闇の因縁/第五章 女城攻防/第六章 亡霊の影/第七章 焦土の楼閣/上田秀人 著作リスト