墨痕 奥右筆秘帳
(ぼっこん おくゆうひつひちょう)
上田秀人
(うえだひでと)
[伝奇]
★★★★
♪公儀奥右筆組頭立花併右衛門と、その護衛役を務める若き剣術遣いで旗本の部屋住みの柊衛悟が活躍する、伝奇時代小説シリーズの第10弾。
「といったところで、奥右筆は不偏不党が是である。どのような状況になろうとも、それを曲げることは許されぬ」
厳しい声で併右衛門が断じた。
奥右筆は、五代将軍綱吉が、執政たちに奪われていた政の権を取り戻すために設置した役目であった。幕政にかかわるすべての書付を取り扱い、奥右筆の筆が入らぬものは老中奉書といえども、効力を発しないと決められていた。身分は低いが、それだけの力を与えられただけに、出処進退には他職以上の規律が求められた。(『墨痕 奥右筆秘帳』P.180より)
立花家に婿入りした衛悟に、併右衛門が奥右筆家の心得を説くシーン。本シリーズの魅力の一つが、文の併右衛門と武の衛悟、二人のコンビプレーである。今後、奥右筆家に入った衛悟がどんな活躍を見せていくのか、気になるところ。
「奥右筆秘帳」シリーズは、『密封』『国禁』『侵蝕』『継承』『簒奪』『秘闘』『隠密』『刃傷』『召抱』と、ストーリーに沿った漢字二文字のタイトルが付いている。今回も『墨痕』と漢字二文字だが、うかつなことに、なぜこのタイトルが付けられたのか、読了してもその理由がよくわからなかった。
主な登場人物◆
立花併右衛門:奥右筆組頭、五百石の旗本
瑞紀:併右衛門の一人娘
柊衛悟:立花家の隣家の次男。併右衛門から護衛役を頼まれた若き剣術遣い
柊賢悟:衛悟の兄で、評定所与力
大久保典膳:涼天覚清流の剣術道場の主。衛悟の師匠
木村:衛悟の弟弟子
徳川家斉:十一代将軍
茂姫:家斉の正室
松平越中守定信:奥州白河藩主。前老中で、現在は溜間詰
伊吹散兵衛:松平越中守の家臣
一橋民部卿治済:家斉の実父
太田備中守資愛:老中
松平伊豆守信明:老中
戸田采女正氏教:老中
加藤仁左衛門:奥右筆組頭
山上丹波守:小普請組の組頭
冥府防人:鬼神流を名乗る居合いの達人で元甲賀忍び。一橋治済に仕える
絹:冥府防人の妹。元甲賀の女忍び
笹葉韻斎:防人の忍びの師
蕗:定信の側室で、伊賀の女忍び
菜:定信の下働き女中で、伊賀の女忍び
摘:治済の側室で、伊賀の女忍び
竜山平蔵:摘の父
竜山数矢、達矢:摘の弟
逸:伊賀の女忍び
藤林喜右衛門:お広敷伊賀者組頭
公澄法親王:上野寛永寺門跡
覚蝉:上野寛永寺の俊才で、公澄法親王の命を受けて、願人坊主になる
深園:東寺法務亮深大僧正の法弟子
島津上総介重豪:薩摩藩隠居
初島:大奥年寄
桜庵:お伽坊主
水原市之亮:お広敷用人
倉地文平:お庭番
村垣源内:お庭番
村垣香枝:源内の娘
物語●鷹狩りで上野寛永寺からの刺客から将軍家斉を守った柊衛悟は、念願の立花家婿入りが決定的になる。
一方、京から朝廷の復権を狙い、東寺法務亮深大僧正の法弟子の深園が江戸へやってくる。深園は、家斉の正室茂姫の父である島津重豪や、幕府中枢への返り咲きを狙う松平定信に接近する。そして、二人の力を借りて、異例ずくめの大奥での法要が実現することに…。
目次■第一章 深き闇/第二章 背信の煙/第三章 過ぎし刻/第四章 女の用人/第五章 影たちの戦い