深重の海
(じんじゅうのうみ)
津本陽
(つもとよう)
[海洋]
★★★★
♪第79回直木賞受賞作。
古式捕鯨を扱った時代小説ということで、『勇魚』(C.W.ニコル著・文春文庫)と『サムライの海』(白石一郎著・文春文庫)を思い出し、「海の日」から読み出す。
タイトルは、「たとい罪業は深重なりとも必ず弥陀如来はすくいましますべし」という蓮如上人のことばからつけられている。愛と死が作品の重要なテーマになっていて、われわれ現代人が忘れがちな自然の雄大さと、人間の非力さをあらためて思い起こさせてくれる。重厚で仏教的で純文学の薫りがする作品だ。
また、作中で使われる方言は、最初、とっつきにくく感じられるが、作品にリアリティを与えるとともに次第に何とも言えない効果を生んでいる。
鯨方棟梁として和田覚吾が登場する。和田家は、井原西鶴の『日本永代蔵』に日本十大分限者として描かれ、熊野別当家と姻戚を結び、慶長十一年以来、紀南に君臨してきたという。興味深かった。
物語●節季を控えて、太地村住民三千人は、不漁続きで、正月を無事に迎えられるかどうか不安を感じていた…。そんな明治11年12月24日、孫才次は、祖父で〝沖合い〟(古式捕鯨船団のリーダー)の近太夫らと、漁に出て、遂に熊野灘で子持ちの背美鯨と出合った…。
目次■なし