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おおとりは空に

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おおとりは空に

(おおとりはそらに)

津本陽

(つもとよう)
[芸道]
★★★☆☆

井伊直弼というと、桜田門外の変で攘夷派の老人たちの凶刃に倒れた幕末の大老というイメージしかなかったが、実は茶人でもあったと知り、興味を持った。

「大老・井伊直弼の茶人としての顔!」という帯のキャッチフレーズで、てっきり主人公は、井伊直弼だと思っていた。読み始めてみると、井伊はなかなか登場せず、裏千家十一代家元玄々斎宗室が、茶道興隆に尽力した姿を描く半生記であることがわかった。

裏千家は、利休の死後、女婿少庵からその子宗旦に受け継がれ、宗旦の四男・仙叟宗室を祖としている。千家は、開祖利休以来、宗家が茶湯の秘伝を口伝してきたが、玄々斎は、流儀を体系化し、門人に伝授しすい教本「法護普須磨(反古襖)」をつくることによって、茶道を世に普及させた。幕末維新の激動の中、大名家や豪商などに庇護されてきた小間の侘び茶から行儀作法の基本としての広間の茶へ改革させた茶道界の革新者である。別の意味で凄い人だったのだ。

茶道関係の出版社で、裏千家の機関紙「淡交」を刊行する淡交社の50周年記念出版という性格もつ本書は、茶道をやっている人向けに描かれている部分もあり、門外漢の私には、その情景を思い浮かばずに、残念な思いをした箇所もあった。もう少し、茶道についても基礎的な知識ぐらい身につけておきたいと自戒した。

井伊直弼については、十四男に生まれ、三十代まで部屋住みとして不遇の生活を送り、その中で石州流の茶道にも打ち込んだ茶人としての面をさらりと描いている。武断=波瀾に富んだイメージの強い直弼に対して、文=静のイメージを新たに与えているのが新鮮。

物語●文政元年、尾張藩老職渡辺半蔵規綱は、九歳になる実弟の栄五郎と、江戸をはなれ帰国の途についた。規綱は、三河額田郡奥殿一万六千石の七代領主・大給乗友の次男で、渡辺家に養子に入った。栄五郎は、猪谷一刀流免許皆伝の規綱に剣術を習うようになって間もなく、渡辺家に養われることになった。規綱が加判の職を罷免され謹慎させられたのにともない、江戸を離れて名古屋に暮らすことになった。しかし、栄五郎が名古屋にいたのは、数ヵ月の短い月日であった。文政二年のうちに、裏千家十代認得斎宗室の養子に迎えられ、京都へのぼった。後の十一代玄々斎千宗室である。

目次■童子/相伝/庵主/国学/武家茶道/五常の茶/あとがき

カバー装画:横田美晴
カバーデザイン:CNT508
時代:文政元年(1818)十二月下旬
場所:麻布竜土、麻布三軒家、芝三田汐見坂、名古屋、京・小川通り寺之内上ル、彦根城二の曲輪槻御殿、埋木舎(うもれぎのや)、外桜田彦根藩邸、四条高倉松山藩京都屋敷ほか
(講談社文庫・619円・04/05/15第1刷・358P)
購入日:04/06/03
読破日:04/07/01

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