長安殺人賦
(ちょうあんさつじんふ)
伴野朗
(とものろう)
[中国]
★★★★
♪「天の原 ふりさけみれば春日なる 三笠の山に出でし月かも」で知られる、阿倍仲麻呂を描いた作品を読みたいとずっと思っていた。そんなアンテナを張っていたときに、巡り合ったのがこの本。
阿倍仲麻呂と李白が探偵役を務める、歴史ミステリーだ。日本人留学生殺しから端を発した事件は、唐王朝を震撼させるスキャンダルへと発展する。そのスケールの大きさが中国的で面白い。
伴野さんは、中国や香港を舞台にした歴史ものやミステリーをたくさん書いている。文中に唐詩がいろいろな形で引用されていて、中国に関する造詣の深さが本書でも遺憾なく発揮されている。
同じ時代を描いている、辻原登の『翔べ麒麟』(読売新聞社)が読みたくなった。
なお、天宝三載の載は、年のことで、この時代に使われていた。
物語●唐の皇帝・玄宗の治世も三十二年目に入り、「開元の治」といわれた精力的な政治への関与には、すでに情熱を失い、孫のような楊貴妃を溺愛し、一抹の衰えを見え始めていた頃。春のたけなわの曲江のほとりを李白と日本人・阿倍仲麻呂が歩いていた。二人の前で日本人留学生が殺された…。死に瀕して留学生が残したメッセージが「しょうりゅう」。死の謎を仲麻呂と李白が追うことに…。
目次■プロローグ/入唐/疑惑/昇龍/胡姫/陰謀/牡丹/真相/エピローグ/解説 野口百合子