(けんかくしゅんじゅう・かどわかし)
(とばりょう)
[剣豪]
★★★★
♪『里美の恋』『女剣士ふたり』に続く、千坂藤兵衛・里美父娘が活躍するキュートなチャンバラ時代小説「剣客春秋」シリーズ第3弾。一刀流中西派の道場主千坂藤兵衛と一人娘の里美を中心に、物語が進むが、ユニークなところは里美が女剣士として設定されていること。女武芸者というと、「剣客商売」の佐々木三冬を想起するが、もう少し若い娘である。
池波正太郎さんの「剣客商売」と同様に、剣豪小説に江戸の町人の生活ぶりや人情を織り込んだ市井小説の要素を取り入れている。鳥羽さんの「剣客春秋」は、さらに作者の得意のミステリーの趣向を盛り込んだところが面白さだ。
鳥羽作品では、チャンバラシーンが魅力の一つである。今回は、一刀流の「乗突き(のりづき)」という技が登場する。突いてきた敵の刀身の上に己の刀身を乗せ、押さえながら突くというもの。この技は敵のみぞおちを狙い、刀身を水平にして一気に深く突くので、切っ先が相手の背から抜けるほどの激しい刺撃を生む。凄味のある技である。
物語●北町奉行所吟味方与力の幼い息子が何者かに連れ去られるという事件が起こった矢先に、本所相生町の油問屋に夜盗が押し入った。番頭を殺害し、現場には「子供の命が惜しくば、手出し無用」の紙片が置いてあった。ほどなく臨時廻同心坂口主水の子息で、千坂道場に入門したばかりの綾之助も姿を消す。藤兵衛と里美は新しい門弟の行方を追って探索を始める……。
目次■第一章 入門者/第二章 乗突き/第三章 怨念/第四章 里美あやうし/第五章 大川端死闘/解説 菊池仁