江戸三尺の空
(えどさんじゃくのそら)
多岐川恭
(たきがわきょう)
[ピカレスク]
★★★★☆☆
♪この夏の収穫のひとつに、多岐川恭さんの時代小説に出合ったことが上げられる。もちろん、以前からその名前は知っていたが、何となく敬遠していた作家の一人であった。『岡っ引無宿』(光文社文庫)を読んでなかなかやるじゃん、て思い、百鬼丸さんのカバーイラストが気に入って入手していた本書を読む。
市中引き廻しの途上で縄抜けした囚人と、それを追う牢屋同心の息子との手に汗握る対決で、600ページ近いボリュームを一気に読ませてくれた。登場人物がいずれも悪い奴でしかも個性的なのがいい。池波正太郎さんの盗賊ものにも通じる、上質のピカレスク時代小説だ。
主人公の音次とおりゅうが、「俺たちに明日はない」のボニー&クライドのようで、悪い奴なのだが憎めず、泣かせる。
’88年に大陸文庫として刊行されて以来、長く入手困難だったこの作品を刊行した、新潮社の文庫担当者に拍手を贈りたい。巻末の末國善己さんの解説もわかりやすく、過不足なく適切だ。『ゆっくり雨太郎』は“うたろう”と読むことも知る。
◆主な登場人物
音次:市中引き廻しの途上で縄抜けした囚人
由太郎:音次の牢仲間
榎本角蔵:牢屋同心
角之助:角蔵の息子で茶問屋三河屋の養子
花井源養:亀井町に住む牢医
おりゅう:堀留二丁目の常円寺の大黒
権六:源養の下男
慈光:常円寺の住職
繁三:芝源助町の岡っ引
もよ:角之助の実母
三河屋四郎兵衛:呉服町の茶問屋
お勢:四郎兵衛の娘
良念:常円寺の小僧
間順哲:お城の表坊主、今、河内山
政吉:スリの親分
上総屋長右衛門:本銀町の両替屋で由太郎の父
お園:長右衛門の妾
鉄蔵:上総屋の番頭
おのぶ:上総屋の遠縁の娘
お米:水茶屋の看板娘
銀作:神田雉子町の岡っ引
源二:銀作の子分
儀十:車引き
丈六:本所相生町の小間物問屋阿波屋主人
幸右衛門:三十間堀の袋物屋の主人
お楽:下野安蘇郡二万一千石堀川近江守の奥女中
摂津屋茂兵衛:堀川家出入りの呉服屋
託間庸斎:牢医
物語●押し込み、殺しで獄門となるはずだった囚人・音次が、市中引き廻しの最中に、なぜか縄が解けて脱走する。縄を改めた牢屋同心は切腹し、その息子・角之助は、父の仇を討つために、岡っ引きの子分となって音次の行方を追う…。
目次■なし