天正十年夏ノ記
(てんしょうじゅうねんなつのき)
岳宏一郎
(たけこういちろう)
[戦国]
★★★★☆☆
♪安部龍太郎さんの『神々に告ぐ』上下巻(角川書店)を読んで、興味がふつふつと湧いてきた、戦国時代の天皇と公家について、さらに明快に描いたのがこの作品。
「言継卿記」の山科言継、「兼見卿記」の吉田兼見、そして、本作品の主人公の「晴豊記」など、記録魔が多い公家の世界が意外にも描かれてこなかったのが不思議なほど。もっとも、腹芸が得意で、本心を明かさず、言行が一致していない人が多いのも、公家の特徴のようで、物語として描くには作者に多大な筆力が要求されるのかもしれない。
本書で描かれる、天皇の秘書官にあたる青年貴族から見た信長像というのが何とも新鮮で面白い。
物語●正親町(おおぎまち)天皇の右中弁(秘書官)・勧修寺(かじゅうじ)晴豊は、織田信長の美濃併合成功を祝して、綸旨を発給した。綸旨は、これより1年後、信長が足利義昭を擁して上洛する際の大義名分となった…。
青年貴族を通して、激動する戦国時代と、神になろうとした男・信長を描く好著。
目次■一章 勧修寺家の人々/二章 金色のブヨ/三章 征服者/四章 九十九髪/五章 友情/六章 勇健な姫君/七章 隠者たちの廻廊/八章 巨人奔る/九章 婚礼/十章 砂時計/十一章 嵐の中の島たち/十二章 歓びの月/十三章 湖べの寺/十四章 雨|解説 縄田一男