蘭陽きらら舞
(らんようきららまい)
高橋克彦
(たかはしかつひこ)
[捕物]
★★★★
♪『だましゑ歌麿』『おこう紅絵暦』『京伝怪異帖』『春朗合わせ鏡』と続く、シリーズ5作目。『京伝怪異帖』は、登場人物の重なりが少なくて別路線の番外編といったところ。
『蘭陽きらら舞』は、トンボが得意な元・女形役者の蘭陽と、駆け出しの絵師・春朗(若き日の葛飾北斎)のコンビが活躍する連作時代小説。蘭陽が華々しく読者の前に登場する前作『春朗合わせ鏡』とセットで読むといいかも。
佐伯さんの創り出すヒーローはどんどん強くなり勝ち過ぎる傾向があるから、老中田沼意次のような強力な敵役を据えることは、物語を面白くするために必要不可欠なこと。とはいうものの、自分としては田沼意次の政治は寛政の改革よりもよほど改革的であり、松平定信より人物的にも数等ましという考えの人なので、意次を悪者にするのは好きではないが…。
もっとも、蘭陽の初出は『京伝怪異帖』で、両国で廃業した料理屋の留守番として、チョイ役で出ている。本書では、そのときの話(平賀源内との関わり)にも触れられている。『京伝怪異帖』は、最初に中央公論新社で単行本で出版、講談社文庫で文庫デビュー後、文春文庫に入りという作品としては数奇な生い立ち。蘭陽の存在によってシリーズ入りを果たした。
さて、『蘭陽きらら舞』だが、若衆髷を結い、女と見紛う美貌と、派手で奇抜なファッションの、江戸のオネエ系男子の蘭陽の活躍と生い立ちにスポットを当てた、伝奇色の濃い事件帖といったところ。主人公が解決型のヒーローではなく物語をかき回すトリックスター的で、シェイクスピア劇ではパックのような存在というところが面白い。
また本書では、元女形役者の蘭陽に舞台復帰の話があることから、江戸の芝居の世界も描かれている。成田屋や勝俵蔵(若き日の鶴屋南北)らも登場する。『おこう紅絵暦』に登場した中村滝太郎も出てくるので、シリーズのファンにとってもうれしいサービス。作者お得意のホラー色もありで楽しい一編。
物語●元女形役者の蘭陽は勝俵蔵(後の鶴屋南北)から、市村座の芝居に出ないかと、思いがけない申し入れを受ける。十二年前に玉川音哉の名で芝居小屋に出ていたが、小屋の上がり銭を盗んで逃げた連中の片割れと見なされて、廃業を言い渡された都座から回状を回され、一味の三人はその後に殺されたという。トンボを切るのが得意で、戻れるなら役者に戻りたかった蘭陽は、絵師の春朗(後の葛飾北斎)に、役者への復帰話を相談する…。
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目次■きらら舞/はぎ格子/化物屋舗/出で湯の怪/西瓜小僧/連れトンボ/たたり/つばめ/隠れ唄/さかだち幽霊/追い込み/こうもり/解説 ペリー荻野