(かたぎりかつもと)
(すずききいちろう)
[戦国]
★★★☆☆☆
♪御贔屓の鈴木さんの最新作。浅賀さんのアクの強い表紙画がまず目に飛び込んできた。大坂の陣で、キャスティングボードを握る人物の一人、片桐且元を題材に選んだのは鋭い。「賤ヶ岳七本槍」といわれながら、武功面よりも豊臣秀頼の守役のため、行政官的なイメージが強い。そのあげくの大坂冬の陣直前の裏切り(?)。でも、何もなければ、激動の時代は生き残れないはず。うーん、気になる。
鈴木さんの作品を読むと、「なるほど、そうだったのか」と思わせられることが多い。今回も、大坂の陣に際しての行動で、疑問と謎のあった、大坂惣奉行・片桐且元について、ぼんやりしていたその人間像がくっきりと浮かび上がってきた。
この片桐且元に絡むのが、隠密・飛騨神岡五郎太。組織に属さない、若き天才はぐれ忍者である。立場や地位を超えた、この二人の掛合いが楽しい。また、古きよきいくさ人というべき、且元を通して見た、大坂城に住まう人々や家康方の人物像が興味深い。
『国書偽造』を読んで以来、感じていることだが、鈴木さんの描くところの、論争による対決シーンは緊迫感があって、見所のひとつだ。
「国家安康・君臣豊楽」で、史上有名な方広寺鐘銘事件にスポットを当てているところも注目。
物語●慶長十九年八月朔日、京方広寺の門前は、竣工を迎え、落慶法要を控えて、殷賑をきわめていた。大坂惣奉行片桐東市正且元の隠密、飛騨神岡五郎太は、『忍び狩り』の命を受けていた。方広寺落慶にともなう雑踏のなかから忍びを探し出して始末することだった。鴨川手前の女郎屋の前で、五郎太は背中に殺気を感じて、忍びたちに襲われた。それは、方広寺の工事を邪魔する徳川方の間者か、はたまた…。
目次■壱 方広寺/弐 駿府/参 君臣豊楽