(むごんさつけん・だいみょううち)
(すずきえいじ)
[剣豪]
★★★★☆
♪殺しの標的が老中の座を狙う大名という設定が面白い。鈴木英治さんの「無言殺剣」シリーズ第一弾。第二弾の『火縄の寺』が発売されて、遅ればせながらこちらを入手。主人公は、一言も発しない浪人。無言ゆえに名前もなかったが、周囲の人間にとって名無しは不便なので、浪人に心酔する若いやくざもの伊之助が「音無黙兵衛」と名づける。時代小説で名無しの主人公は珍しい。そういえば、1970年代~80年代に活躍したビル・プロンジーニという作家のシリーズに「名無しのオプ」というのがあったのを思い出した。
「大名討ち」という大胆なタイトルが付いているように、黙兵衛に依頼された、殺しのターゲットは、次期老中の座をうかがう譜代大名久世豊広だ。関宿藩も久世家も実在したが、豊広は架空の人物。
泰平の時代に、黙兵衛がいかにして大名の首を取るのかが最大の見所。それを阻止するのは、横山佐十郎をはじめとする関宿藩藩士たち。鈴木さんらしいチャンバラシーンが圧巻だった。『火縄の寺』も読みたくなった。
物語●冒頭、土井家の剣術指南役の笹田八之丞と久世家の剣術指南役横山佐十郎の二人の剣士が、将軍の御前で試合を行った。二人の主人である土井大炊頭利直と久世大和守豊広は、同じ譜代で老中の座を争う関係で、古河藩八万石と関宿藩五万八千石と領地も接しているライバルだった。試合は佐十郎の一方的な勝利で、屈辱を負った利直は……。
そんな折、土井家の城下、古河の町に、剣の腕は無類だが、一言も口を発しない謎の浪人が訪れる。無言の浪人に賭場荒らしを取り押さえて助けられた、やくざの親分の三男坊の伊之助は、浪人に「音無黙兵衛」という名を付けて慕い、通訳代わりを務める。黙兵衛のもとに、恐るべき殺しの依頼がもたらされる。殺しの標的は大名久世豊広だった……。
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