残映
(ざんえい)
杉本章子
(すぎもとあきこ)
[短編]
★★★★
♪中編の「残映」と短編の「影男」と「供先割り」の三編を収録。「影男」は、直木賞受賞作『東京新大橋雨中図』(文春文庫)の後日談といったところ。
表題作の「残映」が秀逸。読みはじめるまで、帯に「心中事件の真相を探る…元旗本…新聞社…」と書いてあるのを早合点して、成島柳北を描いた作品と思い込んでいた。成島は、松井今朝子さんの『幕末あどれさん』(PHP研究所)でチラッと出てきて、気にかかっていたからだ。
ところが、この作品を読んでもっと気になる人物を発見した。佐久間鐇五郎だ。元旗本でありながら、御一新後は指物師に転身したのだ。本編から伺える明治以降の活躍はもとより、旗本時代の活躍ぶりをぜひ知りたい。彼は、旧幕時代に火附盗賊改役や南町奉行を務め、勝海舟とも親交があったのである。「杉本さん、よくぞ光を当ててくれました」ってところでしょうか。
物語●「残映」築地の旅館で三人の男女の心中死体が発見された。そのうちの一人は、先妻の妹の夫だったことから、元旗本で今は指物師の鐇五郎は事件の真相解明に乗り出すことになった…。「影男」新政府の自由民権運動への弾圧に抵抗して、小林清親が描いた肖像絵は、旧知の絵草紙屋の主人の配慮で名前を消されていた…。「供先割り」地見の正八は、ふとしたことから磐城平五万石藩主・安藤対馬守信行家の陸尺(駕籠かき)をする羽目になった…。
目次■残映|影男|供先割り|解説 由里幸子