水雷屯 信太郎人情始末帖
(すいらいちゅん・しんたろうにんじょうしまつちょう)
杉本章子
(すぎもとあきこ)
[捕物]
★★★★☆
♪『おすず』に続く、「信太郎人情始末帖」シリーズの第二巻。昭和30~40年代の小説本を思わせる装幀が面白い。ものを知らないために、「すいらいとん」と読んでしまった。「水雷屯(すいらいちゅん)」とは、八卦見で、多事多難の相のこと。
主人公は、四年前、二十二の秋に、許嫁がいたにもかかわらず、吉原仲之町の引手茶屋千歳屋のお内儀おぬいと深間になり、大身代の太物問屋美濃屋を勘当になった信太郎。思うところがあって、千歳屋を出て、今戸町の慶養寺寺近くの万平店の長屋に一人住み、猿若町の河原崎座で、大札をつとめるおぬいの伯父のつてで、勘定方の仕事を手伝っている。
芝居小屋の周囲で起こる事件に巻き込まれる信太郎が、持ち前の好奇心の強さと推理力、洞察力から、事件を解き明かす捕物小説だ。年上の女性と訳ありの若者というと、平岩弓枝さんの『御宿かわせみ』が思い出される。黒船来航時ということで、時代背景もほぼ同じで共通項といえる。ディテールとして、芝居の世界が描かれているのが興味深い。
謹厳なイメージの義兄の不倫、幼なじみの冤罪、不審な火事と殺人事件、長屋の住人が巻きこまれた災難…。信太郎自身も水雷屯ともいうべき、多事多難ぶりを見せる。おぬいとの関係にも新たな進展があり、信太郎の周囲でも新たな恋もようがみられ、今後がますます期待される楽しみなシリーズである。
物語●「水雷屯」信太郎は、義兄で木綿問屋の主人・庄二郎から、相談を持ちかけられた。妾宅で手形を奪われ、妾も行方不明だという。評判の女占い師に見てもらうと、水雷屯という多事多難の相が出た…。「ほうき星の夜」信太郎の幼友達で、岡っ引の手下を務める元吉が、不仲の兄貴分の常蔵殺しの嫌疑をかけられて大番屋送りになった…。「前触れ火事」河原崎座の囃子方の貞五郎と相惚れの仲の芸者・小つなを贔屓にする呉服屋がもらい火に遭った…。「外面」居酒屋で、万平店の住人たちと飲んでいた信太郎は、中間と亡きぼくろの男の不審な話を耳にした…。「うぐいす屋敷」万平店の住人で植木職人・かん助が半纏を借金のかたとして、金貸しにとられたという…。
目次■水雷屯|ほうき星の夜|前触れ火事|外面|うぐいす屋敷|解説 清原康正