参議暗殺
(さんぎあんさつ)
翔田寛
(しょうだかん)
[明治]
★★★★☆☆
♪「やわら侍・竜巻誠十郎」シリーズが快調な、翔田さんが明治初期の未解決事件の謎に挑む、歴史ミステリーで食指が動く。
明治四年に起こった太政官参議、広沢真臣(ひろさわさねおみ)殺人事件の謎に迫る歴史ミステリー。未解決のこの事件は、これまでに高橋義夫さんの『闇の葬列』でも描かれている。
広沢真臣は長州藩の雄で、明治新政府の中心人物の一人であるが、スキャンダラスな惨殺に遭ったこともあり、どういう事跡の人なのか、幕末にはどんな活躍をしたのか、今の時代の人にはほとんど伝えられていない。ということで『参議暗殺』は新鮮な発見があり、面白かった。
物語のプロローグで、慶応四年に、偽官軍として下諏訪で断罪された、赤報隊のことに触れられる。また物語では、慶応二年に起こったある事件が謎を解く鍵になっている。それらも含めて、明治が幕末の延長戦として生まれたことが実感できる。
明治というと、西洋化や文明開化のイメージが強いが、本書を読むと、初年においてはがむしろ、「復古」の色が濃いことがわかる。兵部省とか刑部省という古代の律令制になぞられた名称であり、弾正台にしても検非違使以前の検察官の名称である。祭典を統べ、諸陵を守り、宣教を監督する神祇官が、太政官の官制外に独立して、新政府官制の頂点を占めたりして、公家を中心とした復古主義が大きな力を持っていた時代でもある。
山田風太郎さんの『警視庁草紙』をはじめとする、伝奇色の濃い明治ものに匹敵する、傑作明治時代小説である。
物語●明治四年、明治新政府の中心人物で、太政官参議の広沢真臣が自邸で何者かに惨殺された。後ろでに縛られて全身を切り刻まれた見るも無残な姿で発見された。刑部省逮部の佐伯謙太郎は、独自の捜査でその死の謎を追う…。
目次■プロローグ/第一章/第二章/第三章/第四章/エピローグ/解説 西上心太