海王伝
(かいおうでん)
白石一郎
(しらいしいちろう)
[海洋]
★★★★☆☆
[再読]
♪『海狼伝』と『海王伝』の主人公・三島笛太郎について書く機会があり、改めて読み直すことにした。初読のときはちょうど単行本が刊行されたばかりだから十年ぶりくらいだろうか。海の物語にもかからず、山のシーンから物語は始まっていたこともすっかり忘れていた。
“狼”から“王”へ、さらにスケールアップした気がする。笛太郎が船大将を務める黄金丸での航海シーンや船いくさの場面の臨場感が圧巻。解説には、風や操船技術などを一覧表にしたり、それを見ながら絵を書いたりして、作品にリアリティを与える工夫を作者がしている姿が書かれていた。
「悪業を重ねるために生まれた者」という義理の叔父、戦略将軍李伏竜の言葉を胸に、海賊の王への道を歩み続ける、笛太郎。一方では、「おぬしは性根のある男じゃ。必ずよい交易商人になるじゃろう。荷見せの立ち合いを見ていてよくわかった。人を信じることは、交易商人の大切な資質じゃ。信なくして異国人相手の交易はできぬ。他人に利益を与え、しかるのちに己を利する。この心がけがあれば、どこでも人の信頼を得る。」と、シャムに住む日本人リーダーはいう。
次回作は、解説の縄田さんが予言するように、『海神伝』になるのだろうか? ぼくは、その前に、『海龍伝』が書かれることを期待する。白龍王=馬格芝、黄龍王=馬志善、林鳳=赤龍王、そして青龍鬼=笛太郎が海賊として育った船とあるから、我らが笛太郎は海龍王として現れるのではないだろうか。
物語●紀州・熊野の山奥の村で、若者・龍神牛之助は、村八分にされていた。日ごろの若者の振る舞いに猟師たちが腹をたてたからである。罠にかかった野兎や鹿を、若者が仕掛けを外して逃がしたり、仕事の邪魔をするのだ。村を逃げ出した牛之助は、十津川の筏師たちの仲間に入った。そして、そこにも村八分の回状が送られてきて、新宮に出ることになった。そこで、牛之助は初めて海を見た…。
目次■山の男/漂流/鎖ざされた海/海賊たちの旗/王者の川/異母弟/夕映えの海/解説 縄田一男