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つばくろ越え 蓬莱屋帳外控

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つばくろ越え 蓬莱屋帳外控つばくろ越え 蓬莱屋帳外控
(つばくろごえ ほうらいやちょうがいひかえ)
志水辰夫
(しみずたつお)
[街道もの]
★★★★☆☆

江戸と諸国を一人で運ぶ通し飛脚。慎重で用心深く、肝のすわった、いざというとき機転のきく、腕もたてば逃げ足も速い者でなければつとまらない。そんな男たちを主人公にした連作時代小説。

飛脚といっても大金を運ぶことが多くその正体を隠して行う裏の仕事ともいうべきものだけに、物語構成もユニークで面白い。六百両を運んでいた先輩飛脚が何者かに襲われて、命を奪われ、大金も行方不明になる事件を追う表題作。笹沢左保さんの「木枯し紋次郎」を想起させるような始まり。生意気な子ども巳之吉の存在がなんともいい。

志水辰夫さんの初期の冒険小説のファン(その後、自分が時代小説ファンに転じたため、後期の現代ものを読んでいない)として、かつて熱狂した作品の世界を思い出すようなハードボイルドタッチのストーリー展開で、懐かしくもうれしくなった。

そして、もっともシミタツ節が炸裂するのが、身元を偽り逃げ回るように暮らす医師夫婦と関わり合いになる飛脚を描く「ながい道草」だ。時代小説では珍しいのだが、昔の冒険小説で描かれることがあったマンハント(人狩り=人が人を狩りのように追い詰める)のシーンも出てきて、スリルとサスペンスに満ちた話に仕上がっている。

巻末の解説で、北上次郎さんが、志水さんの時代小説を2つの系統に分類されていた。時代小説デビュー作で系統からは外れる『青に候』も含めて、どちらの系統の作品も面白いが、この「蓬莱屋帳外控」シリーズのほうがより、冒険小説で築いた志水ワールドに近い感じがする。

さて、物語の舞台が、会津と越後の国境だったり、越前、陸奥など、地方の村を描くことが多くて、現在の地図を見てどこなんだろうかと場所を調べたり、主人公たちが歩いた道筋をたどるのが楽しい。

主な登場人物
仙造:蓬莱屋の飛脚
勝五郎:蓬莱屋の帳外の仕事の元締め
宇三郎:蓬莱屋の飛脚
忠三郎:蓬莱屋の総元締め
伊助:蓬莱屋の名代
久六:蓬莱屋の小僧
鶴吉:蓬莱屋の飛脚
半助:蓬莱屋の飛脚
弥平:仙造の兄貴分の飛脚
おかね:蓬莱屋の飯炊き
秦吉:おかねの亭主
十兵衛:六部(巡礼)
巳之吉:十兵衛の子
おとく:舞川村の木賃宿の下女
寿平:舞川村の百姓
おふう:弥平の女房。元小唄の師匠
銀三:落合村の馬子
千吉:銀三の長男
万吉:銀三の次男
田代寿之助:丹生郡本保村の幕領陣屋の手代の元締加判(次席)
すみ:寿之助の妻
おかじ:宇三郎の女房
ちよ:おかじの娘
つや:おかじの腹違いの姉
金指小十郎:菊井の出張陣屋の手代
亀吉:田代家に仕える老僕
文吉:岡っ引き
惣八:土地のやくざもので文吉の手下
きよ:すみに仕える下女
檜山道之助:小柳村に暮らす医師の道安の本名
乙吉:道安の弟子
りく:道安の妻
かつ:小柳村出身の女
正作:かつの夫
雄一郎:道安の跡を追う若侍
重兵衛:雄一郎の従者
伝蔵:素破
八重乃:相馬の廻船問屋三橋屋の女主人
くら:半助と同じ長屋に住むばあさん
長八:半助を慕う若者
くめ:下野皆瀬に住む長八の母
もん:新見寺の留守番
絹川きく:龍田村の名主の娘

物語●「つばくろ越え」蓬莱屋の飛脚仙造は、五百両の金を運ぶ旅の途中、会津と越後の国境近くの村で、六部の父を亡くして孤児になった巳之吉と知り合う。しかし、手形を持っていないために連れ歩くことができず、村の木賃宿に食い扶持を払って預けた…。
「出直し街道」蓬莱屋の飛脚宇三郎は、不正が発覚して江戸へ出奔した陣屋の元手代の田代寿之助に頼まれて、寿之助の妻すみに金と手紙を届けに越前丹生郡にやってきた。しかし、屋敷はなくなり、すみは姿を消していた…。
「ながい道草」仙造は越後刈羽郡小柳村の檜山道之助に薬を届けに来た。しかし、自分の一存で新潟に正金を運ぶ用事を先にしたために、小柳村へやってくるのが五日遅くなってしまっていた…。
「彼岸の旅」蓬莱屋の古株の飛脚半助が、相馬行きの仕事を最後に、郷里に帰って隠居するという置き手紙を元締めの勝五郎宛に残して、江戸を出ていった。半助に世話になり、その死に水を取るつもりの勝五郎は、心配してその後を追うことに…。

目次■つばくろ越え|出直し街道|ながい道草|彼岸の旅|解説 北上次郎

カバー装画:ゴトウヒロシ
デザイン:新潮社装幀室
解説:北上次郎
時代:嘉永二年
場所:会津領耶麻郡舞川村、越後藤倉村、御神楽岳、落合村、神田元岩井町、横川、法恩寺、岩本町、越前丹生郡宮本村、渋沢、池之端、越後刈羽郡小柳村、松之山温泉、芋坂、下野皆瀬、相馬、登米、加治村、ほか
(新潮社・新潮文庫・670円・2012/03/01第1刷・459P)
入手日:2012/03/02
読破日:2012/03/09

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