半蔵幻視
(はんぞうげんし)
嶋津義忠
(しまづよしただ)
[忍び]
★★★★
♪『半蔵の槍』(講談社文庫)などの忍者小説の雄、嶋津さんの書き下ろし未発表作品。表題作のほかに、『半蔵の槍』の主人公・柘植重兵衛が活躍する短編『重兵衛彷徨』を収録。
嶋津さんの忍者小説の特徴は、忍びもまた、心を持った人として描かれている点である。それゆえに、登場人物たちが愛に悩んだり、裏切ったり、夢に賭けたりし、生き生きと輝くのである。
もちろん、アクションシーンの描写も見事である。半蔵と武田忍びの竹庵(変装の名人ながら血の臭いを嫌い、桔梗の匂い袋を身につけているという設定が秀逸)との対決。「重兵衛彷徨」での重兵衛と根来忍びの対決など、わくわくする。
物語●「半蔵幻視」服部半蔵正成は、天方山城守通綱とともに家康のもとに呼ばれた。織田信長の命で切腹を申し付けられた嫡男・信康の自裁を見届けるためであった。しかし、半蔵は、信康に、ある夢を夢を託していた…。「重兵衛彷徨」左脚を失った乞食然とした老忍者・柘植重兵衛は、家臣の妻を奪った松平忠直が、妻を返せと掛け合ってきたその家臣を殺させた場面に出くわした…。
目次■半蔵幻視(一章 信康の命/二章 王国/三章 血の臭い/四章 秘境京丸/五章 松平郷)|重兵衛彷徨|解説 縄田一男