天空の橋
(てんくうのはし)
澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[市井]
★★★★☆
♪購入して10日間ぐらい、すぐに読み出すのがもったいなくて表紙を飾りながら日々すごしていました。ろくろの前で作陶する人物の背景に京の町が霞んで見える、蓬田さんの表紙が趣があって気に入っています。
『虹の橋』『見えない橋』『もどり橋』『幾世の橋』と続く、「橋」シリーズの完結編。
徒歩が主要な交通手段であった昔、橋のもつ意味は非常に重かったのではないだろうか。そこでは、人が出会い、別れ、旅立ち、集う。住む人を隔てる境界線ともなっている。そういうことを考えると、「橋」を人情交差点とたとえるのも理解できる。ちなみに、菊池仁さんの編による『時代小説ベストアンソロジー第1巻』(ベネッセ)のタイトルも「人情交差点―橋ものがたり」と名づけられている。
澤田さんの作品では、江戸時代の京の工芸品や風俗、文化が作品の随所に綴られていて、興味深い。本書でも、通常の史料では軽視されがちな京焼(とくに清水焼と粟田焼のライバル関係など)の世界が、作品の重要なテーマとして描かれている。
狩野派とともに日本の画派を二分する土佐派の名手で人物画を得意とする、土佐光孚(みつただ)が、脇役として登場するのも見逃せないところ。
物語●但馬・湯嶋の湯治宿で下働きだった十五歳の八十松は、湯治客の京都・五条坂の京焼の積問屋高野屋長左衛門に見込まれ、五条坂の亀屋熊次郎のもとで、陶工として育てられることになる…。行手を阻む困難を克服し、成長のはざまで感じ取った人生の哀歓を描く。
目次■第一章 春の翳/第二章 命の相客/第三章 えせの窯ぐれ/第四章 足引きの町/第五章 あの坂をのぼって/あとがき