天涯の花 小説・未生庵一甫
(てんがいのはな しょうせつみしょうあんいっぽ)
(さわだふじこ)
[芸道]
★★★★
♪購入してなくしてしまったと、思ってあきらめていた本書を、部屋の片づけをしているうちに見つけた。すごく、読みたいと思ってあちこち探していただけにハッピーだ。
澤田さんというと、華道をテーマに、『花僧』(池坊立花成立に貢献した池坊専応。実はまだ読んでいない、手に入らないのだ)、『空蝉の花』(池坊の異端児、大住院以信)と本書を含めて三作品ある。あとがきによれば、作者は、花道に誕生にかかわった人々の辛苦を描いた作品がないことに不満を感じていたとのこと。これらの作品を読むと、華道という静的で史料も少なく読者の共感を得にくい分野、非常にハンディをかかえたテーマをドラマティックに描いている。
四部構成。主人公は、池坊と二分する華道の一大勢力未生流の流祖・未生庵(斎)一甫(沼田内蔵助・山村山碩)。天明3年の浅間山噴火から物語は始まる。『狐火の町』の時にも感じたが、この人(澤田さん)は、災害を描くのがうまいなあ。
物語●二十三歳の沼田内蔵助は、幕臣山村家の妾腹の子として、小普請組支配無役の沼田家に婿養子に入る。舅の又左衛門は猟官運動に奔走する。新妻・蕗は度々父と外出する。そんなある日、親友・高瀬修蔵は遊女・葉と心中する。内蔵助が一人残された修蔵の妹・雪に代わり葬儀の手配するうちに、事件が起こる・・・
木曾、尾張、京都、九州、四国、山陰と漂泊の旅の中で、内蔵助(山村山碩)は、多くの人と出会う、自身の花論を作り上げていく。