瀧桜
(たきざくら)
澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[短編]
★★★☆☆
♪1994年8月に朝日新聞社より刊行された『閻魔王牒状』を改題したもの。
あとがきによると、自然の諸相の中で、作者がもっとも魅せられるものは、瀧の姿であるということ。瀧には、伝説や物語があり、男性的な荒々しさが、一転して静謐にもどる姿に、たまらない好ましさを感じるという。
この作品では、12の瀧が登場し、12の物語を紡ぎ出している。高名な瀧もあれば、無名のものもある。各話とも原稿用紙23枚の制限の中で、スリリングな一編に仕上がっている。とくに、「天空妙音」と「閻魔王牒状」は秀逸。
物語●「熊野の絵師」熊野山中の那智社に“ほっきょう”と呼ばれる絵師が住んでいた…。「仏の橋」暁闇の中、清水寺奥院の音羽瀧に打たれに行く娘がいた…。「天賦冬旅図」作庭師の宗阿弥は、工事現場をぼんやり眺めていたひとりの初老の男に目を留めた…。「嘘は好けれ」大垣藩士が藩主の購入した名画を運ぶ一行を出迎えにいった…。「天空妙音」奥飛騨の寒村に原因不明の熱病が流行した…。「瀧桜」公家・大炊御門経久は、病床で磐城・三春の瀧桜を夢見ていた…。「壷中山居」伊佐蔵は根付師としての腕を持ちながら道楽が過ぎて、借金に追われていた…。「美濃の聖」数人の子供たちが、不審な墨染姿の僧に向けて威嚇の礫を投げつけた…。「比良の水底」葛川の瀧の音にまじり若い修験者が修業をしていた…。「閻魔王牒状」源蔵は愛宕山から丹波を稼ぎ場とする猟師だった…。「わくらば蕪村」六十三歳の蕪村は、布引瀧を見て一句詠んだ…。「水面の顔」太吉は、母の病気の回復を祈って、三日に一度、伏見稲荷の弘法瀧に打たれ、その水を汲んみ、薬として母に飲ませていた…。
目次■熊野の絵師|仏の橋|天賦冬旅図|嘘は好けれ|天空妙音|瀧桜|壷中山居|美濃の聖|比良の水底|閻魔王牒状|わくらば蕪村|水面の顔|あとがき|解説 縄田一男