重籐の弓
(しげとうのゆみ)
(さわだふじこ)
[短編]
★★★☆
♪哀歓あふれる短編の名手ぶりを発揮している。とくに表題作の「重籐の弓」、「花鋏」、「蓮台の月」がすばらしい。
物語●「重籐の弓」篠山藩京藩邸に奉公するお杉は、嵯峨野で男たちに襲われているところを有職御弓師大蔵彦次郎に助けられる。弓師の業を描く。「将監さまの橋」大垣藩祐筆番頭桃田彦十郎は、将監さまの橋で寺侍と話しこんでいる隣人を見かける。「短日の菊」奈倉甚九郎は、大垣藩の不手際で15年も無駄歩きをさせられた埋め合わせに、扶持二百石と屋敷を与えられる。心にあるのは、四十年前に仇討ちのために別れた五十緒のことだった。「花鋏」郡上藩浪人の娘八重は病床の父を抱え、大住院以信の立花で生計をたてていた。若旦那に見初められ料理屋へ嫁ぐ。「たつみ橋」与謝蕪村に俳句を師事していた葉茶商青松堂吉兵衛は、先立たれた息子との仲を裂いた料理茶屋で働くお桂のことが気がかりだった。「心中雪早鐘」近江屋仁左衛門と後妻のおもよは湯嶋へ湯治に出る。そこで、おもよは初恋の相手吉五郎と再会する。「朧夜の影」元東町奉行所与力土田宗兵衛は、釣りの帰りに西土手の刑場で石工を見かけ、昔の事件を思い出す。「名付け親」大垣藩士小宮掃部助は、少年時代の恩人の老婆伊勢の相談を受ける。「蓮台の月」灰屋紹益の妻徳子は、かつて六条三筋町で吉野太夫と呼ばれた伝説的な傾城であった。