公事宿事件書留帳 九 悪い柩
(くじやどじけんかきとめちょう9・わるいひつぎ)
澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[捕物]
★★★★
♪『闇の掟』『木戸の椿』『拷問蔵』『奈落の水』『背中の髑髏』『ひとでなし』『にたり地蔵』『恵比寿町火事』に続く、江戸時代の弁護士事務所である公事宿の居候・田村菊太郎が活躍するシリーズ第九作。
京の大宮姉小路通りの公事宿鯉屋に居候する田村菊太郎が活躍する、「公事宿事件書留帳」シリーズの第九弾。米屋の主の葬列に石を投げた少年を描いた表題作ほか5編を収録している。
いずれも京の町に根ざした人々を描く人情味あふれる市井ものであり、捕物帳仕立てになっていて読み味がいい。今回は、「黒猫の婆」と「お婆の御定法」の2編で、しっかりした気力と意志を持った凛とした二人の老女(お里とお寿)が登場するのが興味深い。作者の考えを投影する存在として、親と子、主人と使用人、老人と子どもなど、人間社会の「正しい姿」を見せてくれる。
物語●「釣瓶の髪」釣瓶に黒髪がからんで上ってきたことから、女が殺されて井戸に投げ込まれるという事件が露見し、京の町では井戸浚えが大流行だった。川魚料理屋「美濃七」を営む清太郎は、四カ月の身重の若女房を失ったばかりでやつれが目立っていた…。「悪い柩」公事宿の鯉屋に、十歳前後の少年修平が同心福田林太郎の手下を務める松五郎に連れてこられた。修平は、米屋の主の葬列で、金襴をかぶせられた寝棺に石を投げたという…。「人喰みの店」菊太郎は鯉屋の手代喜六と花札をやり、負けた方が鰻の蒲焼きを奢ることになった。喜六は花札に見事に勝ち、鰻の名店で菊太郎を待つ間に、飯台を一つ隔てた向こうで、貧しそうな身なりの母子四人連れが、極上の鰻を一匹ずつと、う巻きとうざく、肝の吸い物を食べているのを見かけた…。「黒猫の婆」室町の横諏訪町の棟割り長屋の空家に、利休鼠色の夏羽織を着た品のいい老女が引っ越してきた。老女・お里は長屋に不似合いの大店の隠居といった格好で、黒猫を抱き、初老の男衆を従えてやってきた…。「お婆の御定法」菊太郎は三条大橋で、橋の上に腹ばいに倒れこんだ四、五歳の男の子と、怒鳴りつける父親と思しき職人風の男の会話を聞いた…。「冬の蝶」菊太郎は、所司代屋敷の道場の近くの勝岩院前の思案茶屋に立ち寄り、道場に行かずに朝から団子と熱燗を注文した。店の前にをきれいな中振袖を着た十一、二歳の女の子がふらふらと現れ虚空の何かを追い求めるのを見かけた…。
目次■釣瓶の髪|悪い柩|人喰みの店|黒猫の婆|お婆の御定法|冬の蝶|解説 安宅夏夫