公事宿事件書留帳 八 恵比寿町火事
(くじやどじけんかきとめちょう8・えびすちょうかじ)
澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[捕物]
★★★★
♪『闇の掟』『木戸の椿』『拷問蔵』『奈落の水』『背中の髑髏』『ひとでなし』『にたり地蔵』に続く、江戸時代の弁護士事務所である公事宿の居候・田村菊太郎が活躍するシリーズ第八作。年末刊行にふさわしく、凛としてハートウオーミングなストーリーに期待。
このシリーズを読むたびに思うことだが、京の公事宿という舞台設定を決めたことで、この作品の面白さが約束されたようなものだと思う。公事宿は、「出入物(でいりもの)」と呼ばれる民事訴訟事件を解決するために、遠くからやってきた訴訟人を泊めたり、紛争の調停を務める役割を担っている。また、出入物は「吟味物」と呼ばれる刑事事件に発展することもあり、捕物小説として事件を描くには自然な設定の一つである。法だけでは割り切れない人情味あふれる決着もつけられ、読後感の良さにつながっている。
京の町を舞台にしたことで、江戸を舞台にした多くの時代小説に比べてオリジナリティを出しやすく新鮮な印象を与える。しかも、修学旅行や観光旅行、TVや雑誌などの情報で、日本人ならだれでもなじみ深い場所でもある。しかも、京の町で生活し、京の歴史や文化、風俗に精通した作者によって、時おり織り交ぜられるちょっとした知識が興趣を盛り上げてくれる。
本編のエピソードとして「仁吉の仕置」と表題作の「恵比寿町火事」がジーンとくる。「寒山拾得」と「末期の勘定」は、作者の古美術に関する造詣の深さを感じさせてくれる。
『公事宿事件書留帳一 闇の掟』
『公事宿事件書留帳二 木戸の椿』
『公事宿事件書留帳三 拷問蔵』
『公事宿事件書留帳四 奈落の水』
『公事宿事件書留帳五 背中の髑髏』
『公事宿事件書留帳六 ひとでなし』
『公事宿事件書留帳七 にたり地蔵』
物語●「仁吉の仕置」公事屋宿「鯉屋」の下代・吉左衛門は北野天満宮の境内で、刺青をのぞかせた若い飴細工売り仁吉が客の幼い兄妹にやさしい声をかけているのを見かけた…。「寒山拾得」田村菊太郎は、二条の仮橋で、岸辺の葦に破れ絵らしいものを見つけた。数枚の破れ絵を拾い上がると、小ぶりな水墨画の上半分に、ゆったりした筆致で「寒山拾得」らしい人物の顔が二つ描かれていた…。「神隠し」菊太郎の紹介で、近江の瀬田から「鯉屋」に蜆売りにやってきた少年・武蔵が、お店者の男にいちゃもんをつけられた…。「恵比寿町火事」大沼の蔵六という盗賊の似顔絵が四条町の辻の高札場に張り出させれた。その似顔絵を見て不審に思った床山の男がいた…。「末期の勘定」大店の扇商の主人が死に際に、三十数年前に、手代を勤める知り合いの男から五十両を盗んだことを妻と息子に告白し、その男を見つけ出してお金を返して侘びるように遺言を残したが…。「無頼の酒」田村菊太郎は、場末の縄のれんで、何事かを企む一味に近づき内偵をしている、異腹弟・銕蔵配下の曲垣染九郎を見かけた…。
目次■仁吉の仕置|寒山拾得|神隠し|恵比寿町火事|末期の勘定|無頼の酒|解説 安宅夏夫