(きどのむこうに)
(さわだふじこ)
[市井]
★★★★
♪『竹のしずく』(PHP研究所)を改題し、「木戸のむこうに」と「戦国地蔵」を加えたもの。
今思い出すと、澤田ふじ子さんの作品を集中して読むようになったのは、『竹のしずく』を読んでからであった。澤田さんの作品を読むたびに、京のこと、作品に描かれている時代のことをいろいろ教えてもらった。
「木戸のむこうに」では、有名な京料理“蕪蒸し”の誕生秘話が楽しめる。「病葉の笛」や「竹のしずく」では、御蔵米公家(貧乏公家)の実態を知ることができ、「雁の絵」では古筆見や経師など古美術の世界をうかがうことができる。もちろん、作者の博覧強記ぶりを楽しむのが主眼ではなく、そこに描かれている人間の運命の数奇さや魂の交流の美しさ、人の欲望の醜さなどが味わえる珠玉の短編集である。
物語●「木戸のむこうに」料理茶屋の女主お高は、町風呂で泣いている若い娘と知り合った…。「雁の絵」経師屋の職人栄次郎は、十五年奉公をし、一人前になっていた…。「二人雛」御所人形職人・吉五郎は、近江大掾の受領名を持つ有職御人形司から仕事の手間賃をもらっていた…。「憲法の火」年老いた母を抱え、黒染め職人の弥之助は、二年のお礼奉公をすませ、方広寺脇に小さいな黒染屋を営む算段をつけていた…。「病葉の笛」お登世の父親弥助は、小さな竹籠屋をいとなんでいたが、お登世自身は横笛作りを得意にしていた…。「竹のしずく」豆腐屋の主吉右衛門は、甥で売り子の太市を叱りつけていた。隣でおかき屋を営む佐助は、薄い切り餅を焼きながら、吉右衛門の叱り声に眉をひそめていた…。「戦国地蔵」町絵師の弥右衛門は、吹雪の日の寒い中で町廻りをする筆結いの中蔵を呼び止めて、仕事を依頼した…。
目次■木戸のむこうに|雁の絵|二人雛|憲法の火|病葉の笛|竹のしずく|戦国地蔵|解説・大野由美子