火宅の坂
(かたくのさか)
澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[武家]
★★★★☆
♪「リストラされた士(さむらい)たちの生きる道とは!?」という帯が気になり購入。
時代小説を読んでいると、人としてのどのように生きるべきか考えさせられることがある。最近の澤田さんの左卯品は、現代のいろいろな問題を江戸時代に置き換えて描くことが多い。作者自身、あとがきで、執筆の動機として言及されていることからわかる。
この本では、企業のリストラがテーマとなっている。大垣藩で「延享の永御暇(ながおいとま)」といわれる、藩の財政悪化を理由にした、藩士の大量解雇を描いている。「永御暇」が断行される際の、藩士たちの怒り、困惑、疑心暗鬼、苦しみに焦点が当てられていて、共感を覚えてしまう。
主人公の天江吉兵衛も、上司におもねらず、周りの人に思いやりのある人物で、信念に基づいて行動するために、「永御暇」のリストの筆頭にあげられてしまう。しかし、画才と持ち前の前向きさと周囲の人たちに支えられて、困難に立ち向かう。武士としてのつまらない見栄や意地を捨て、卑屈にならない、その姿に勇気づけられ、彼のように人として誠実に生きたいと思う。吉兵衛の母・友江は、折りに触れて吉兵衛を叱咤激励し諭す賢母ぶりで、作者の分身を思わせる。
京都の文化に精通した作者らしく、伊藤若冲や円山応挙ら、江戸中期の京都画壇の様子も随所に描いているのも興味深い。
物語●美濃大垣藩士・天江吉兵衛(あまえきちべえ)は、京屋敷に出納役として仕える二十三歳の若者。田宮一刀流の剣の遣い手ながら、大垣城下の菩提寺で「広陵除祚(こうりょうじょそ)」の中国画を見てから、武芸の無力を覚えて、絵の興味を持ち始める。京で、墨斎という町絵師のもとに夜間通って習うが、ある夜、門番が寝過ごしたために、やむなく、長屋門の屋根をよじ登り屋敷内にもぐりこもうとしたところ、町廻り中の京都東町奉行所同心・佐多林蔵に不審をとがめられる…。
目次■第一章 京の夜寒/第二章 危うい足音/第三章 永御暇/第四章 初冬の鐘/第五章 世間の橋/第六章 深い霧/第七章 春の扇/初刊本あとがき/解説 大野由美子/澤田ふじ子 著書リスト