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遍照の海

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遍照の海遍照の海
(へんしょうのうみ)
澤田ふじ子
(さわだふじこ)
[恋愛]
★★★★☆☆

久しぶりに作品を読んでいて切なくやるせなくなってしまった。最近の澤田さんは向日性のある、ピュアな人物を主人公を据えることが多かった。とくに、タイトルに「橋」のつくシリーズなど。この作品は、1992年に『別冊婦人公論』に掲載されたもの。掲載誌を念頭におき、一人の女性の道ならぬ恋を見事に描ききっている。

数奇な運命をたどる京の紙商鎰屋(かぎや)の娘・以茶(いさ)の作という形で挿入される俳句が何ともいえずにいい。

転びつつ子のもてきたる柿一つ
短夜や眠りの浅き東窓
これはこの馬の背に乗り死出の旅
月の夜やわらぢに痛し雪の道

主人公・以茶が遍路をめぐる序章で始まる、物語がショッキングだった。第一章以下で、そのような運命をたどることになる以茶の恋の行方が描かれる。

物語●白衣に経帷子をかさね、小さな観音開きの笈を背にした以茶は、四国遍路に追われてから二年余り、三度目の秋をいま土佐国・高岡で迎えようとしていた……。

目次■序章 生涯遍路/第一章 祝言/第二章 商家の女事/第三章 祇園まつり/第四章 道ならぬ恋/第五章 袈裟がけ/終章 遍照の海/あとがき/解説 清原康正

カバー装画:中島千波「春の日・枝垂桜」
装幀:丸山邦彦
解説:清原康正
時代:安永六年(1777)
場所:高松、京・塗師屋町、船屋町、鴨川の河原
(中公文庫・552円・98/09/18第1刷・279P)
購入日:98/09/20
読破日:98/11/05

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