(まくずがはらのけっとう・ぎおんしゃしんとうじけんぼ)
(さわだふじこ)
[捕物]
★★★★☆
♪『奇妙な刺客』『夜の腕』に続く、「祇園社神灯事件簿」シリーズ第三弾。主人公は、平堂上(公家)・植松雅久の庶子で、馬庭念流の達人で祇園社の神灯目付役・植松頼助(うえまつよりすけ)。珍しくカバーの装画とデザインのクレジットが入っていなかったが、イラストは蓬田やすひろさんの絵。表題作は、弱者の味方である神灯目付役らしい活躍ぶりが見られる仇討ち話。
中川卯之助の父新兵衛は、敵探しに出て十五年、今では病に伏してしまい、やっと見つけた敵から逆に命を狙われていた。父に代わり敵を討とうとする卯之助はわずかに十歳あまり。卯之助の健気さ、新兵衛の無念さに共感した植松頼助、孫市、村国惣十郎の三人の神灯目付役は助太刀を決意する。しかし、敵は卑怯にも六十人もの助勢があった。六十人の敵に、三人の目付役が挑む。目付役が敵討ちの場に選んだのが、真葛ヶ原だった。そこには数的な不利を覆す秘策があった。
「僧兵の塚」はハートウォーミングだが、「梟の夜」と「鳥辺山鴉心中」はちょっとせつないお話。とくに、「鳥辺山鴉心中」では博打とお金の怖さを痛感させられた。
村国惣十郎がかつて出仕していた藩について、「僧兵の塚」までは出石藩だったのが、「鳥辺山鴉心中」では篠山藩に変わっていたのが気になる
ブログ◆
2006-05-03 六十対三の決闘。京が舞台の捕物小説
2006-05-02 僧兵の末裔? 神灯目付役
物語●「僧兵の塚」祇園社の南参道の先で、頼助と相役の孫市は、料理茶屋・阿波屋が盗賊に押し入られるの見つけ、店内に助けに入る……。「真葛ヶ原の決闘」惣十郎の息子で十七歳になる喜平太は、頼助に頼まれて、ろうそく屋の林屋に、麻袋いっぱいのろうそくの燃え滓を持ち込んだ。その帰りに、かつて住んでいた長屋で顔なじみの少年・中川卯之助と出会った……。「梟の夜」頼助が祇園社の見廻りに出かけている間に、祇園祭で警固をともにする四座雑色荻野家の雑色小頭の安蔵が訪れたが用件も残さずに帰っていった。頼助は訝しく思うが……。「鳥辺山鴉心中」祇園社秘蔵の狩野探幽作「神武天皇東征図」が補修と表具替えのために市中の表具屋に出されたことから事件が起こった…。
目次■僧兵の塚|真葛ヶ原の決闘|梟の夜|鳥辺山鴉心中|あとがき/解説 菊池仁/著作リスト