調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚
(ずしょしょうざえもん・さつまはんけいざいかんりょう)
佐藤雅美
(さとうまさよし)
[経済]
★★★★☆
♪『薩摩藩経済官僚』(1989年、講談社文庫)を加筆・修正のうえ、改題したもの。破綻寸前の薩摩藩を建て直し、維新への道を拓いた、調所笑左衛門にスポットを当てた作品。
維新の大業をなした西郷隆盛や大久保利通やその薫陶を受けた者たちが中心の歴史観のために、彼らの敬愛する島津斉彬の反対勢力である調所笑左衛門の評価は驚くほど低い。果たして本当に、守旧派として君側の奸だったのだろうか?
そんな疑問にスパッとこたえる歴史小説が本書だ。莫大な借金を抱えて窮地に陥った薩摩藩が、維新の大事業を成功させるための経済的な基盤を作った人物が調所笑左衛門である。現代人の見方かたすれば、その価値は計り知れないところだ。
物語●文化文政期から天保期にかけて、薩摩藩は五百万両にのぼる借金をかかえ、参勤交代もままならない貧窮にあえいでいた。文政末年に、一人の男が薩摩藩の再建に乗り出した。そして男は見込みのなかった再建に成功する。五百万両の借金を整理し、三百万両をひねりだし、うち二百万両を長年ほったらかしにしていた公共事業等につぎこみ、百万両を備蓄する。このような準備があったから薩摩藩は、維新の大事業にのりだすことができた。天はまるで、薩摩藩の回天の大事業を成功させるがために、一足はやく男を、薩摩に配したがごとくである。しかし、男は当時も、いまも“偉業”を称えられることがない。
男は茶坊主あがりで、名を調所笑左衛門といった。
目次■貧窮/完敗/欠配/十万両/大往生/二百五十年賦/黒船襲来/陰謀/終章/解説 清原康正