傭兵ピエール 上・下
(ようへいぴえーる・じょうげ)
佐藤賢一
(さとうけんいち)
[西洋]
★★★★☆☆
♪『双頭の鷲』や『王妃の離婚』で注目される、佐藤賢一さんの『モンテクリスト伯』や『三銃士』を想起させるロマンあふれるフランス時代小説。前作の『ジャガーになった男』(集英社文庫)は、支倉常長遣欧使節に随行した仙台藩士が、スペインでの波瀾万丈の冒険をするという、お話だった。しかし、今回は、完全に主人公も舞台もヨーロッパに置くという形で、和製西洋時代小説ともいうべき、新しい分野の作品を作り上げている。しかも魔女狩りや十字軍など中世の雰囲気を残す時代で、日本人には馴染みの薄い世紀を扱っていて新鮮だ。
「百年戦争」と呼ばれる戦乱で、荒廃していたフランスを救うために現われた、聖女ジャンヌ・ダルクと一人の傭兵の長い長い物語。歴史物語というよりは、伝奇小説って感じで、忘れかけていた物語小説の復権でもある。青ひげ公ジル・ドゥ・レが登場するのも嬉しい。
作品の主人公の傭兵ピエールが何とも魅力。作者が意識してかどうかはわからないし、ストーリーに類似性があるわけではないが、なぜか忠臣蔵における大石内蔵助像と共通点が多い人物に思われてならないのが不思議だ。
物語●時は1429年、イングランド王の侵略により、フランス王国は戦火にさいなまれていた。王国屈指の大貴族ドゥ・ラ・フルトの私生児ピエールは、傭兵のシェフ(頭目)に落ちぶれていた。戦乱の中で、ピエールは、運命の女・ジャンヌ・ダルクに出会った…。
目次■一の巻、傭兵も生きていかねばならない話(夜/出会い/朝がきて/いざ出陣)|二の巻、悪辣非道の傭兵が十字軍になる話(閲兵/父の肖像/入城/宿舎/再会/ルイーズ/救世主は女/波紋/開戦/十字軍の巷では/休日/攻防/捕虜/決戦前夜/トゥーレル決戦/オルレアン解放/燃えない連中/進軍/ランスの戴冠式/展開/サン・ドニ/ヴィベット/ラ・ビュセルがおかしい/犬の目/パリ/戦い終えて/荷造り/北風)|三の巻、根無し草の傭兵が、ねぐらを得る話(帰還/俺たちにまかせろ/作戦会議/準備万端/戦い/小さな救世主/家)(以上上巻)|四の巻、下賎の傭兵が偉大な神のご意志を全うする話(無駄話/ふた冬がすぎて/不意の客人/北へ/ルーアン潜入/再会/司教の女/奈落/魔手/牢/鉄槌/ラ・ピュセル昇天/仮面の騎士/昔話/ジル・ドゥ・レの城/明るいきざし/秘密/怒りおさえられず/青髭/逃亡/思わぬ失敗/故郷/ソフィー/嘘/神がみえた日/ジャン/旅の終わり)|五の巻、傭兵が死にかけたところで貴族になる話(死人/トマ登る/みえたもの/襲え/急転/ヨランド・ダラゴン)|六の巻、後の話(四年がたって/ルイの話/仕事/笑み)|解説 井家上隆幸(以上下巻)