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カルチェ・ラタン

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カルチェ・ラタンカルチェ・ラタン
(かるちぇ・らたん)
佐藤賢一
(さとうけんいち)
[西洋]
★★★★☆

16世紀前半、パリのl学生街「カルチェ・ラタン」を舞台にした冒険小説。

カルチェ・ラタン(ラテン語の街区)は、、パリ大学があるセーヌ川左岸の大学街の意味で、教師や学生が学問用語のラテン語を喧しく議論したことに由来する。カトリック教会が絶大な力を持っていた16世紀頃、最上級の学問が神学であったという。この物語でも、神学を学ぶ者たちの青春群像が描かれ、その周りでいろいろな事件が起こる。

カルチェ・ラタンの落ちこぼれで、今はパリの夜警隊長を務めるドニ・クルパンの回想録というスタイルで物語は綴られていく。これは「偽回想録」というスタイルで、『三銃士』などの西洋古典文学の形式を再現しているものだという。中世フランスの雰囲気が味わえて楽しい。という訳で、ネタバレ気味のところもあるが、目次もあえて全文掲載した。

ドニ・クルパンがワトソン役で、マギステル・ミシェルがシャーロック・ホームズ役を務める推理小説としても楽しむことができる。乗馬靴から犯行現場を推理するシーンなどは、ホームズ譚を彷彿させてくれて、思わずニヤリとした。

イエズス会を創設したイニゴ・デ・ロヨラ(イグナチウス・デ・ロヨラ)、日本に初めてキリスト教を布教したフランシスコ・ザビエル、プロテスタント教会のひとつカルヴァン派の創始者ジャン・カルヴァンら宗教改革に取り組んだ教科書に載るような有名な宗教人も登場し、宗教史に詳しくない門外漢も面白く読める仕掛がいっぱいの西洋歴史小説の傑作。

物語●パリで一、二を争う船会社クルパン水運の息子で、パリの夜警隊長、ドニ・クルパンは、ガーランド通りの印刷屋で、若い女性の裸を見た。女性はマルト・ル・ポンという名で、印刷屋の若い未亡人で、ドニの友人で家庭教師でもあるマギステル・ミシェルの新しい恋人だった。ミシェルは、ドニの家庭教師であるばかりでなく、若くして「マギステル(先生)」の資格を取得し、学名が高く、カルチェ・ラタンで「聖トマス・アクィナスの再来」と呼ばれる逸材だった。難事件解決の援助を受けに、ミシェルを訪ねていった印刷屋で、初対面のマルトの裸を見たドニは、動揺して、自身の筆下ろし未遂事件のことを口走ってしまった挙句に、印刷屋を飛び出してしまった…。

目次■序|ドニ・クルパンの回想録 一 私こと、ドニ・クルパンがガーランド通りの印刷屋を訪ねること、ならびに生涯忘れられない恥をかくこと/二 私こと、ドニ・クルパンがカルチェ・ラタンを歩くこと、ならびにマギステル・ミシェルが得意の警句と推理を披露してみせること/三 マギステル・ミシェルが第一事件の捜査の協力を請け合うこと、ならびにフランシスコ・ザビエルが厚い友誼を示すこと/四 サン・トノレ街にアラン・サロンを訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルが第一事件の真相に意外な推理を寄せること/五 アラン・サロンの逮捕で第一事件が決着すること、ならびにマギステル・ミシェルの横暴に、私こと、ドニ・クルパンが激しい抗議に及ぶこと/六 私こと、ドニ・クルパンが第二事件に遭遇すること、ならびにマギステル・ミシェルの許で、不良と優等生に等しく立腹を覚えること/七 サン・ジェルヴェ区にアンリ・デルヴェルを訪ねること、ならびに物に目敏いマギステル・ミシェルが、優れた馬具に非常な興味を示すこと/八 私こと、ドニ・クルパンが深夜に穴掘りを行うこと、ならびにマギステル・ミシェルが第二事件の推理と捜査を独断すること/九 戦慄すべき第二事件の全容が明らかになること、ならびにマギステル・ミシェルが神学の潮流と新たなキリスト教の動きを苦々しく論じること/十 マギステル・ミシェルがサン・テスプリ学寮を訪ねること、ならびにゾンエバルト教授を相手に難解な神学問答を行うこと/十一 マルト・ル・ポンが「コンドーム」に激怒して、大いに泣きわめくこと、ならびに私こと、ドニ・クルパンが弁えた大人として、根気よく世の道理を諭すこと/十二 修道女ナタリーに再会すること、ならびにマギステル・ミシェルが「コンドーム」の神学理論を、臆面もなく披露すること/十三 私こと、ドニ・クルパンが念願の恋人を得ること、ならびにマギステル・ミシェルが意地の悪い評をなして、私に絶交されたること/十四 愛しきベアトリスが失踪すること、ならびにマギステル・ミシェルと連れ立ち、サン・トゥスタシュ街の古着屋を訪ねること/十五 サン・テスプリ学寮の真実を覗きみるこおt、ならびに私こと、ドニ・クルパンが失恋の痛手を癒すために、神学の道を志すこと/十六 カルチェ・ラタンの大運動会が行われること、ならびにイニゴ・デ・ロヨラの破天荒な明るさに、失恋の痛手を大いに慰められること/十七 大貴族が司教の位をほしいままにすること、ならびにマギステル・ミシェルが臍曲りにも、あえて望んで、ネール塔の高飛び込みに挑戦すること/十八 不意に第三事件が勃発すること、ならびに悪徳神父の殺害現場に現れて、パリ司教座特別捜査官ユベール・デシモンが権限委譲を求めること/十九 サント・バルブ学寮で神学論争が戦わされること、ならびにマギステル・ミシェルが窮地に立たされること/二十 マギステル・ミシェルが獄に繋がれること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが救出を決意すると、思わぬ仲間が助太刀に馳せ参じること/二十一 マギステル・ミシェルが獄中から指令を出すこと、ならびにノートル・ダム大聖堂の鐘撞き男に、二枚の羊皮紙を手渡されること/二十二 冤罪糾弾委員会がサント・バルブ学寮で対策を協議すること、ならびに若き学僧ルイと修道女ナタリーが、それぞれ手柄を上げること/二十三 アンボワーズにドゥ・ラ・フルト伯爵夫人を訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルの知られざる過去が明らかになること/二十四 若き学僧ルイ・ミレーが殺害されること、ならびに捜査の難航に、パリ司教座が体制を改めること/二十五 マギステル・ミシェルが釈放されること、ならびに一連の顛末に関連して、衝撃的な事実を皆に明かすこと/二十六 宗教改革の志士が互いに睨み合うこと、ならびにルイ・ミレー殺害に関して、ジャン・カルヴァンが重大な証言をもたらすこと/二十七 サン・テスプリ学寮に張りこみを行うこと、ならびに修道女ナタリーの隠れた交遊が明らかになること/二十八 サン・テスプリ学寮の陰謀が明かになること、ならびにマギステル・ミシェルが侃々諤々の議論を制して、果敢な決断に至ること/二十九 サン・テスプリ学寮の強制捜査を断行すること、ならびにゾンネバルト教授が居合わせた犯人に、素直な自首を勧めること/三十 ジャン・カルヴァンがジュネーヴに旅立つこと、ならびにマギステル・ミシェルが私に無断で、暴挙に等しい神の正義を全うすること/三十一 私の兄こと、アンドレ・クルパンに頼み事をされること、ならびにマギステル・ミシェルが思わぬ事実を明かすこと/三十二 マルト。ル・ポンが、最低の男について熱く持論を展開すること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが姑息な視線を手ひどく糾弾されること/三十三 私こと、ドニ・クルパンがサン・タントワーヌ街の三階屋を訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルが剣と鉄砲の違いを巧みに論じてみせること/三十四 一大決心でガーランド通りの印刷屋を訪ねる、ならびにマギステル・ミシェルが推理で断定するところ、最愛の女性が誘拐されてしまうこと/三十五 サン・テスプリ学寮が激怒の群衆に取り囲まれること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが自分の気持ちを確かめて、果敢な行動に移ること/三十六 マギステル・ミシェルが図書館で本を読むこと、ならびに私こと、ドニ・クルパンが導き出された結論に苛立ち、また戸惑いを覚えること/三十七 サン・テスプリ学寮の門前で乱闘に及ぶこと、ならびにマギステル・ミシェルが打開の武器の、なんたるかを名言すること/三十八 マギステル・ミシェルが師匠と対決すること、ならびにゾンネバルト教授の誤謬が無残に暴き出されること/三十九 イエズス会がサン・ジャック門から広い世界に旅立つこと、ならびにマギステル・ミシェルがパリに最後の宿題を残すこと/四十 この回想を閉じるにあたり、事後の顛末を報告すること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが真実に開眼しながら、なおも考え続けること|解説 ドニ・クルパンと、その時代 作家 佐藤賢一/文庫解説 吉野仁

イラスト:八木美穂子
デザイン:松田行正
解説:吉野仁
地図作成・金城秀明
時代:1536年
場所:パリ、サンジャック大通り、ガーランド通り、カルチェ・ラタン、サン・ブノワ教会、サン・トノレ街、サント・バルブ学寮、ノートル・ダム大聖堂、シャトレ塔、オルム港ほか
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