ジャガーになった男
(じゃがーになったおとこ)
佐藤賢一
(さとうけんいち)
[伝奇]
★★★★☆
♪うーん、何ともスケールの大きな時代小説だ。17世紀の初めの日本、スペイン、オランダ、ペルーを舞台にしている。そのため、レコンキスタ(イスラム教徒を相手にした国土再征服戦争)、オランダ独立戦争、リシュリュー枢機卿など、世界史ネタが次々登場して面白かった。
来年は寅年ということではないが、この作品では、寅とジャガーが登場し、何やらタイムリーな感じがする。その主人公寅吉と「ドン・キホーテ」のようなイダルゴのベニトとの友情や、従者ぺぺとのからみなど、ユーモアもたっぷりあり楽しませてくれる。
先ごろ話題になった、トゥパク・アマルやルイ十三世の側近のガスコーニュ貴族ジャン・ドゥ・トレヴィルなども登場する。(「見よや、われらガスコン青年隊♭」って、昔聞いた、モンテ・クリスト伯のラジオドラマの中で歌われていた、ガスコンは、ガスコーニュのことだったのだ!)
支倉使節団といえば、2年3ヵ月にもわたって、スペインに滞在したということであるが、その実態はあまり記録に残されていないだけに、時代小説の題材として、今後もいろいろ面白い作品が生まれるかもしれない。こういう分野の書き手が少ないだけに、次作の『傭兵ピエール』もぜひ読みたい。
物語●伊達藩士・斉藤小兵太寅吉は奥州一の剣士。許婚の米を捨て、冒険を求めて、支倉常長遣欧使節に加わった。着いたイスパニアはすでに、無敵艦隊もやぶれ、斜陽の国になっていた。一人のイダルゴ(戦士)のベニト・レドンデスと意気投合し、その妹エレナと恋仲になり、ともに戦場に赴くために、帰国する使節団と訣別する…。
目次■グラナダ国王サンチョ十五世陛下に捧げる献辞/プロローグ―寅吉独白―/一、武士とイダルゴ/二、男の夢、女の夢/三、黄金郷/エピローグ―寅吉独白―/解説 井家上隆幸