
【新着本】永井紗耶子『旅立ち寿ぎ申し候〈新装版〉』江戸商い小説
(じゃこうねずみ・ながさきぶぎょうひろくいたてじゅうぞうじけんちょう)
(さしかたきょういちろう)
[捕物]
★★★★☆
♪長崎奉行所を舞台にした、新人作家の文庫書き下ろし時代小説。新味で興味深くて楽しめた。
主人公伊立重蔵の仕えている奉行が、長崎奉行松平康英というところがミソ。松平康英は、歴史通にはフェートン号事件で知られている。シリーズ化されていくから、フェートン事件がどのように描かれ、主人公の命運を左右するか大いに気になるところ。
江戸時代の長崎を舞台にした時代小説というと、佐藤雅美さんの『縮尻鏡三郎』や逢坂剛さんの「重蔵始末」シリーズなどが思いつくが、最初から舞台を長崎に置いている作品というと、NHKでドラマ化された市川森一さんの『夢暦長崎奉行』、さらにさかのぼって白石一郎さんの諸作品ぐらいか。そういえば、白石さんの作品にもフェートン号事件を描いた『切腹』があった。
作者の指方恭一郎さんは、プロフィールによると、2004年に「首」で第11回九州さが大衆文学賞大賞笹沢左保賞受賞、2011年に『銭の弾もて秀吉を撃て』で第3回城山三郎経済小説大賞を受賞している。ちなみに九州さが大賞文学賞は、今井絵美子さんが2003年に受賞。
物語●伊立重蔵は在府の長崎奉行松平康英の家人。殿の長崎着任前に、与力として江戸から一人先乗りして、長崎の裏の世界を探るように特命を受ける。そこで、アヘン(阿芙蓉)や鉄砲の抜け荷を行う「麝香ねずみ」と呼ばれる一味の噂を耳にする…。
目次■第一章 麝香ねずみ/第二章 季節はずれの精霊船/第三章 死華花/第四章 水底が呼ぶ/第五章 素銀屋朝蔵/第六章 唐船の謎
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『麝香ねずみ 長崎奉行秘録 伊立重蔵事件帖』(指方恭一郎・文春文庫)