老炎 佐伯右馬之介無明抄
(ろうえん・さえきうまのすけむみょうしょう)
左近隆
(さこんたかし)
[武家]
★★★★
♪タイトルの枯れ具合やあまりなじみのない作家名から、おそらく今までであったら、手に取っていなかったかもしれない。それでも、帯の本格時代小説と堂昌一さんの渋いタッチの装画からチャレンジしてみた。
「老いるとは何か」という、時代小説では珍しいテーマに取り組んだ作品。随所に、老愁、そして人間の孤独感が感じられる。「春・夏・秋・冬」と名付けられた四つの章から構成され、季節の移り変わりに合わせて、物語の起承転結を綴るとともに、主人公の生きざまを托している。
主人公は、元奥祐筆組頭で、今は隠居しているが松平定信政権確立に何かしらの功績があるらしい、という設定。高齢(といっても60歳だが)で、剣はそれほど使えず、年齢からの持病をもち、そのくせ、異性への欲をを持ち続けているという、現代に通じるキャラクターが面白い。
随所に綴られる食に関する記述が、季節感・江戸情緒を醸し出し、池波正太郎作品を彷彿させていい。
物語●松平定信の時代。佐伯右馬之介は2年前に奥祐筆組頭の要職を辞し、家督を息子に譲り、一年前には最愛の妻を失い、孤独な隠居の身。その右馬之介のもとに、水野出羽守忠成の用人・相良種次と名乗る男が訪れた…。
目次■春の章/夏の章/秋の章/冬の章/解説 志村有弘