酔いどれ小籐次留書 御鑓拝借
(よいどれことうじとめがき・おやりはいしゃく)
佐伯泰英
(さえきやすひで)
[武家]
★★★★☆☆
♪著作が絶好調の佐伯さんが放つ新シリーズ。主人公は豊後森藩の藩士・赤目小籐次、作者の得意の九州侍、しかも、幻冬舎からの発行ということも注目したい。
主人公の赤目小籐次は、四十九歳の中年で、五尺一寸(153センチ)の矮躯に大顔、禿げ上がった額に大目玉、団子鼻、両の耳も大きい。辛うじてしっかりと閉じられた一文字の口と笑うと愛嬌を漂わせる顔が救いという風貌で、お世辞にも格好いいとはいえない。その小籐次は見掛けによらず、伊予の水軍が不安定な船戦で遣う剣術を源とした来島水軍流剣法の一子相伝者であった。この剣法を揮ううちに、小籐次がどんどんかっこいいヒーローに見え、応援したくなるから不思議だ。
武士道をテーマにした時代小説を「士道小説」と呼ぶことがある。仇討や殉死などを描いた作品が多いが、本作品も一種の士道小説といっていいかもしれない。ただし、重苦しいところはなく、読み出したら止まらない、痛快なエンターテインメント時代小説。多くの面白い主人公を量産する佐伯さんの作品の中でも、また、楽しみなシリーズが生まれた。第1作からスケールの大きな物語に仕上がっているだけに、次回の展開がとても気になるところ。
物語●豊後森藩下屋敷の厩番・赤目小籐次は、柳橋の万八楼での大酒会で一斗五升の酒を飲んだ末に、藩主・久留島通嘉の参勤下番の行列を六郷の渡しまで見送る習わしを欠礼した。その結果、用人の高堂伍平により、奉公を解かれ、屋敷から追い出されることになった。だが、小籐次には、ある目論見があった。江戸城中で他藩主から辱めを受けた通嘉の無念を晴らすために、脱藩して意趣返しをする決意を固め、東海道を小田原に向かった…。
目次■第一章 一斗五升の男/第二章 酒匂川流れ胴斬り/第三章 城なし大名/第四章 川崎宿暴れ馬/第五章 品川浜波頭/終章